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『伝染るんです。①』(文庫版) P5左〜ネーミングの秘訣〜

 豆腐破壊魔だ!豆腐破壊魔が出た!!
 落語には「豆腐の角に頭ぶつけて死ね」というギャグがあるが、「豆腐破壊魔」という言葉にもこのギャグと同じ洞察が含まれている。「豆腐」という食卓のやさしい固体に対し、「破壊魔」はバールでウインドウを破砕していくような暴力を思わせる。「豆腐破壊魔」と言葉を並べると、柔らかい豆腐に常習的な暴力が加わる実感がある。ここには、「破壊魔」が「豆腐」を修飾するように働き、その結果、「豆腐」が固体の反語として機能する、というような機構が成り立っている。
 豆腐ギャグは、「豆腐」は固体の反語として使える、という洞察なしには生まれない。「豆腐」に豆腐の固体性を強調する語を添えると、ナンセンスな意味の領域が開かれる。言葉に絡まる意味のしがらみをすり抜けて、知らない沃野に踊り出す。
 豆腐の長城、豆腐ボイコット、豆腐につまずき骨を折る、なにわの豆腐ヘッド、言葉に自由を、豆腐に夢を。

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