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透明日記「変な歌を歌う」 2024/07/24

生ゴミを捨て忘れた。ベランダでタバコを吸うと、おれを責めるメロディーがどこからか聞こえる。耳慣れた週二の朝の日常。もう二度と戻らないゴミ収集車。メロディーだけは近づいたり離れたり。実体のないゴミ収集車が町をうろつく。

朝起きて、トイレに入ったときには、ゴミ捨てやなと思っていた。トイレから出て顔を洗うと、ご飯を食べようと思い立ち、ゴミ捨てはどこかに消えていた。

ご飯を食べながら、皮膚科医の新・アトピー物語を聞く。ご飯を食べ終えると、ゴミ屋のメロディーが薄っすら、窓の外から聞こえる。手遅れだった。テレビの中の皮膚科医を恨んだ。口髭がいやらしく感じた。

漫画の短編集を読む。残酷な漫画だった。退屈と刺激、セックスとバイオレンス、欲望と太陽と暗黒の海、白け切った顔を胸の内に秘めて踊る少年少女、アブノーマルな欲望という希望。

空を見る。入道雲が陽気な顔をして、暑くはないから、こちらに来なさいと、嘘を吐き続けている。

ベランダに日除けのために、水色の肌掛けを干す。肌掛けの表には目をつむって走っている羊の群れ。星と三日月も踊る。裏地は無地の水色。太陽に透かした肌掛けは、綿の濃淡がよく分かる。水墨画の山の線のような、淡い線が斜めに何本か走るのを見る。綿の寄った太めの線は、緑がかった色をしている。

太陽と肌掛けの世界で、水墨画の山を見る。目だけがやたらに涼しいベランダの隅で、汗を垂らしながら、冬のスウェットを着て。

昼、ホットケーキを作る。昨日も作った。昨日よりふっくらとして焦げることはない。小さいフライパンで作る。作ったので、食べた。ホットケーキは他人が作る方が美味い。食べると、すぐなくなる。

ホットケーキはあっけない。ホットケーキはあどけない。ホットケーキは昼下がり。いつかの土曜日。晴れた穏やかな、過去の風。やわらかい風。ホットケーキは。窓の外の入道雲、朝干して昼に取り込む掛け布団。ホットケーキは、まどろむ目蓋にそっと置く、ふっくらとした手のひら。ホットケーキは空を飛ぶ。

漫画を少し読んで寝る。未知の疫病が流行り、小国は滅び、WHOに誰も逆らえない世界らしい。中国が崩壊して小国に分裂していた。

寒くて目が覚める。洗い物をする。自重で筋トレをする。インスタで小鳥を眺める。スーパーボールを壁に投げる。三回で飽きる。変な歌を歌う。歌詞を書き足す。

「変な歌①」
炭酸がしゅわしゅわ弾ける
あなたは眠る

「変な歌②」
真っ白な夜と
真っ黒な夜を繰り返す
戦闘人形 のような女
戦闘人形 のような女

顔面に銃器を仕込み
全身に装甲を纏う

爪に緑の毒を塗り
小さなバッグにケミカル兵器

有刺鉄線のパンスト
ハイヒールでブースト

デスマッチを求め彷徨い
夜を歩く 夜を歩く

戦闘人形 のような女

そのような歌を歌う。しばらくして、我に返る。

夜、『ボーダー』を観る。北欧の映画。アニメに飽きたからか、最近はよく映画を観る。森の中を追いかけ合ったり、雨の降る湖で泳ぎ合ったり、裸で生を謳歌するシーンがよかった。奇形の恋。

晩飯はセブンイレブンのビリヤニ。

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