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透明日記「雀」 2023/10/07

朝、ゴミを出して階段を登る。踊り場から、頭の真ん中にメガホンを乗せたゴミ屋の車がゴミ屋のメロディーを流しながら朝であることを知らせているのを見る。

ゴミ収集業務とは無関係に、隣家の青灰色のトタン屋根のその溝に一枚の枯葉が転がる。雀が枯葉を追いかける。傾斜に跳ねる若い雀の跳躍は、ボールがバウンドするように軽い。

近くの電柱のてっぺんで雀が鳴いている。暗い灰色のコンクリート柱が朝日に陰る。

電線を支持する褪せた灰色の粉に覆われた数本のパイプ、電柱に刺さる風化した錆色のボルト・ナット、電柱にリングされた留め金から伸びるパイプを支える筋交、パイプの先端の白い光沢のある碍子、上向く碍子から伸びる隣の電柱への主線、横向く碍子から下方のトランスへと流れる副線、トランス付近から渡される各々の建物への電線。

数千ボルトの灰色の建築に雀たちは住んでいる。二羽の雀がリング状の留め具の周りを回ったり、パイプの中に潜ったり、部材から部材へ、小さく跳ねてはチュイと鳴く。斜めの筋交にも上手に留まる。チュイと鳴くのは子雀か。一羽を追って甘えるようだ。鋭く短く少し掠れた声を出す。繰り返し繰り返し。追われる一羽の素振りは、見てと言う子供の戯れ事を無視して済ます親のようだ。

近所の保育園では運動会が開かれている。親と子供とママチャリが園の門前に集まっている。ガヤガヤと鳴る暗号化された無数の発話から、子供の声で「〇〇ちゃん」と、「ちゃん」だけが強く聞こえる。遠くの人間にまで届くほど明瞭な意味を発しているのは子供だけだ。人間も雀も。

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