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洟垂れの三十二歳

 鼻水はどちらかと言うと嫌いだ。冬は鼻風邪、春は花粉症。今年の夏は市民プールに通ってみたので、プール後にも洟が垂れていた。その上、秋に花粉症も加わった。十代の頃は鼻水と言えば春だったが、もう鼻水で季節を感じる体ではなくなったらしい。一年を通して相当の鼻水を出す。洟垂れの三十二歳。嫌な言葉だ。鼻水は落ちる兆しもなく落ちるから気に食わない。外出先で止まらないのも憂鬱だ。しかし幸い、「パブロン鼻炎カプセルSα」という大正製薬の鼻炎薬があり、服用後三十分程で鼻水が止まる。効果が直接的で分かりやすいので、長年愛用している。ただ、効果がテキメンに効きすぎる所が良くない。目鼻口の五穴から水分が失われ、顔面が干からびる。不思議なもので、顔面が干からびると周囲の世界まで干からびたように見える。副作用で世界が枯れる。薬の箱には1回2カプセル定量とあるが、この量は私には過分だ。これだと水分への渇望がひどい。なので、勝手な話だが、1回1カプセルで済ましている。効果の度合いも12時間の持続時間も変わらない。変わらないのに渇望が少なくて済み、経済的でもある。薬効の勝手が分かるなら、薬は自分の都合に合わせて飲むのが一番だ。

 ただ、鼻炎薬を飲むと楽だが、ここぞという急所にしか使わないようにしている。私は医者や薬の濫用が嫌いだ。大概の不調は体を温めて寝ていれば済む。風邪っぽいというので医者に通う人もいるが、アレは安心を買っているのだと思う。医者の威光で不安を払ってもらうのだ。仏壇に拝むのと大差なく、実質のあるものでない。実質よりも気持ちの問題が大きいのだろう。

 花粉症の春と秋、薬がないと洟が垂れる。家で過ごすときは、ここぞの急所ではない。症状がひどい時はやむを得ないが、たいてい家では使わない。なので、洟が垂れる。ティッシュを使う。しかし、ティッシュを取りに行く面倒も多い。例えば、鼻水の日に外でタバコを吸うと、一段とよく出る。ティッシュは遠い。そんな時は出るに任せ、出るものを口で吸う。鼻の下をキラキラさせて、まさしく洟垂れの顔でアホくさいが、普段人前で見せられない姿になるのはそれなりに心地良いものだ。外面を放棄する清々しさを感じる。洟が垂れるのは困ったものだが、一人の時間にひっそりと洟を垂らして過ごすのはいい心地ではある。

 次回は、「タバコ」でやります。

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