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透明日記「植物園で鯉を撫でる」 2024/07/04

午前中に外に出た。

街の至るところに高校生がいた。平日は学校にいるんじゃなかったか、あれが今時の高校生ってやつか、なんかよくわからない。制服は着てる。

トングやゴミ袋を片手に道に群れる高校生、ペンを片手にスーパーの休憩スペースに群れる高校生、自転車で群れる高校生。あちこちに群れが見られる。雀みたいだ。

群れから外れた高校生もたくさんあった。風にさらわれる蝶のように自転車を漕いでいた。早退にしては多いし、元気がよすぎる。高校に午後はないのか。

高校生は全体的に、爽やかな雰囲気とともに、どこかぽっかりとした暗さがある。翳りある明るさの中で、風に身をゆらす草花のようだった。

高校生が草なら、学校は土なのかしら。先生は樹で、卒業した先輩は、星にでもなるのかしら。なら、関係のないぼくはなんなのかしら。さしずめぼくは雲かしら。

一旦家に帰って涼み、植物園に行きたくなって、外に出る。チャリで長居公園に向かう。

昔、夜の長居公園の樹々の暗がりの中、女の影を抱きしめた。顔も形も分からない。影ばかりの風景だった。一番近くの影を抱きしめていた。いつか見た夢のような思い出になっている。長居公園の近くまで来て思い出した。

思い出すと、いつかの傷が少し開いて、傷口から言葉が染み出た。

あなたが去ってから、世界の端々にいばらが生えているようです。
ぼくはそんな場所にうっかり近づいて、からだが千切れるような気持ちになります。
痛みが過ぎ去ると、ぼくは空っぽになって世界を漂うのです。
長居公園に、そんないばらを見つけました。
罠のようでした。

傷口に心の唾を塗って、ランチ。洋食屋でハンバーグとクリームコロッケのセットを食べた。鉄板プレートに乗って出てくる。美味いけど少し高いなと思う。

メインより野菜に特長があった。盛られたもやしは、生き生きとして張りがあり、美味かった。ブロッコリーの鮮やかな緑も印象的だった。

食後、長居公園をぶらぶらする。湾曲した花壇の石垣に沿って、蛇のようにうねるベンチを見つけた。人通りのない、川の淀みのようなところで、木陰もあったので、ここでタバコを吸う。

植物園に向かう。その道中、木々の合間に枝のようなおじさんがラジオ体操をしているのを見つけた。長居公園にはこういう隠れおじさんが結構見られる。見つけても全然うれしくない。むしろ損をした気分になる。

鳩が道を塞いでいたが、近づいても逃げない。長居公園の鳩は飼い慣らされ、精神が腐っているようだ。野生の勘を忘れてしまっている。ここの鳩は愚鈍で、嫌いだ。

植物園は300円。園内をうろちょろする。

でかい樹に囲まれて歩くのはいい。暑い日差しを受けたあとに日陰に入ると、気持ちが優しくなっていく。大きな風が葉を鳴らし、さあさあという擦れた音が耳を洗う。道にゆらめく木漏れ日がてろてろと目を洗う。

水生植物のエリア。葦が伸びている。ガマという、長目のうまい棒みたいなもんを付けた植物が生えていた。手触りはゴワゴワして、ヘチマのたわし。近くに蓮の花が一輪だけ咲いていた。花の中心の生殖器官は古代のシャワーヘッドのようで、キモい。蓮の花は遠くから見るのがいい。

円形の草が浮いた辺りの水辺で、鯉を見かけた。三匹いる。浅いところを泳ぎ、人間を見ると近づいてくる。あまりにも近く、警戒心もないので、人差し指を伸ばしてみると、鯉の鼻先?に触れることができた。ぬるぬる、よく滑る肌だった。口をパクパク、アホそうだ。

池の中の島の樹々に無数のカワウが暮らしていた。グエグエ鳴いている。島からはヒヨリヒヨリという声も聞こえる。島の端ではアオサギが眠そうにしていた。

涼しげな陰に包まれて、紫陽花がいっぱい咲いている。あまり好きじゃない。いい色の紫陽花もあるが、広く出回っている紫陽花は、小金持ちのオバハンみたいな雰囲気をしている。

炎天の下、黄、朱、橙、マゼンタのユリっぽい花が咲いていた。周囲に漂うムッとした甘い香りが鼻に届いた。

バラ園。なんか草がくさい。日陰にベンチがあったので、座って休む。ヤシが空高く伸びて揺れている。その背景に団地がある。ヤシ越しに見る団地はリゾートホテルのように見え、ずいぶん遠くに来たものだと、旅行のような気分になる。サンダルを履きたくなった。ただ、バラ園にはカラスがたくさんいて、あちらこちら飛び回り、アーアー暑そうに怠そうに黒い声で鳴いていた。

何かのイベントに使うのか、園内には卵形のオブジェがいっぱい散らばっていた。面白くない。なにも置かないでほしい。

園内を一周回って、鯉が恋しくなり、恋したくなり、鯉に会いにいく。アホみたいに、同じところに鯉はいた。人差し指と中指を伸ばし、鯉の頭を撫でる。ぬるっとする。鯉は少し嫌そうだった。恋が冷めたので、帰ることにした。

植物園に来たが、鯉と触れ合えたのが、一番良かった。また鯉に会いにこようと思う。年パスが1000円だったので、鯉と触れ合える年パスとして買ってもいいかもしれない。

今日はよくチャリを漕いだ。チャリの上ではしょうもないことを考える。今日も考えていたので、載せておく。

「テトリスの女」
男はみんなテトリスの棒
わたしの股間にいっぺん挿されば
みんな光って、いなくなる

男はみんなテトリスの棒
みんな光って、いなくなる

「職業病」
昼日中の公園のベンチで
元ヤクザがタバコを咥えている
怖い顔をして、ずっと座っている
ずっとずっと、怖い顔で
ずっとずっと、タバコを咥え
ずっとずっと、座っている
しかし、タバコに火は点いていなかった

元ヤクザは縦社会の上の方に慣れすぎ
自分で火を点けられなくなっていた

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