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透明無題 2023/08/06

明日は試験。朝から仕上げの復習をしていた。三時ごろに一通り整理ができたので、寝転んで窓に流れる雲を眺めていた。雲はじんわり流れていたが、雲にしてはすごい速さだった。順番にカーテンの縁から現れ、窓の端へと消えていく。いつもこんな感じで流れてくれたら、ずっと見ていられる。見ていると、時間ものびのび流れていく。空は気持ちいい。
   
空に飽きて目を室内に移すと、部屋と外の明度の落差に慣れない目は、外の明かりの残像を映していた。目を開けていると二つの四角が黒いシミになって見えにくい。

目を閉じると、シミは緑になった。発光しているような綺麗な緑だ。見とれて目蓋の裏側のシミを見つめていると、薄く影って黄土色になった。この残像は色が変わっていくことを初めて知った。そう思ううちに、残像は下の方に逃げていく。まだまだ見たくて顔を下に向けたがシミはじわじわ下方へ去っていく。

一旦目を開けてまた閉じると、シミはちょっと上に移動していた。それに、黄土色から薄い赤色に変わっていた。目蓋の裏側に焦点が合うということがあるのか、焦点が合ったような感じのときに赤いシミは鮮やかに発光する。薄い砂埃みたいな黄色を背景に、赤い四角のシミが鮮明に光っていた。

ぼくはシミがそのまま光ってくれることを望んでいたが、ぼやけて暗くなっていく。黒い紫色に変色すると、もう、見えなくなった。

目の中の残像を見つめることは昔から好きだったが、こんなにじっくり眺めたことはなかった。一体、三十三年間何を見てきたのだろうか。ほとんど何も見えていなかったのではないか。

そういうことなんだろう。人間は一生のうちにほとんど何も見えないのだろう。それでいいんだと思う。

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