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『伝染るんです。①』(文庫版) P12〜言葉に実感がない〜

 表面ばっかし石膏で塗り固めた心は、その防御力に反して脆い。寒々しくて信用ならんし。心は現実の実感によって強度が保証されるもんやと思う。いかんせん実感のない言葉はおもんない。不快やったら不快やと言う。違う感じを違うと言う。その場で言わんでもその実感を握り締める。私は、という本音を。心のざわめきを封じ込め、忘却し、その空席を他人仕様の言葉で埋めれば、虚ろ。これがしょうむない人間ができるカラクリや思うけど、そこに気付かんおべんちゃらのボンボンが、えてして表面ばっかの他人仕様やからやりきれん。本人はあらゆる場面で上手く立ち回っているつもりかも知れんが、心が透けて内容がない。白紙の声でぺらぺらと。
 言葉は後天的なもんやから「自分の言葉」なんてのはどこにもないけど、自分の実感というもんはあって、この実感がバチンとくる言葉が本音というもので、「せやせや、ほんまにそぉや」ていう共感に、救いはあると思う。

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