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『伝染るんです。①』(文庫版) P9〜身体的特徴に触れること〜

 愛は情熱。告白は気合い。気合い昂る夜深し。筋骨隆々、武闘派風の女子高生が顔面をぶつけて作るチョコレート。山本先輩のためなら。犬山たみ、18歳。届かぬ想い。焦がれる心。しかし、彼女の告白は限度を絶している。18歳の女体としても法外だ。
 法外な肉体は法外な精神の土壌となって、法外なりの思想を、自分や他人の心に育む。法外というと言葉は過大だが、身体的特徴が自他の行動を左右するということはある。小学生の頃、乾燥肌ゆえに隣席の女児から「なんでお前、いつも唐揚げみたいな顔してるん?」と真顔で訊かれた。たまに思い出しては、クリームを塗るようになった。別の隣席の女児は色黒だった。色黒だから図工の時間、ありのままの表現で女の似顔絵を焦茶で塗った。怒られた。事実はぼかすのが女のマナーらしいと心得た。
 身体は微妙だ。気安く触れてはならない。身体は不可侵の孤独を宿す。けれども、触れ合える他人が必要なのも人間だ。

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