元気でいておくれ
お母さん、元気でいておくれ。
大好きだったお母さん、生まれたばかりの私を一番に抱き上げてくれたお母さん。
私のことを一番愛してくれたお母さん。
昨日、庭の花が全て枯れたよ。
お母さん、元気でいておくれ。
お父さん、元気でいておくれ。
大好きだったお父さん、悪戯ばかりする私を一番に叱ってくれたお父さん。
私のことを一番思ってくれたお父さん。
昨日、水が止まったよ。
お父さん、元気でいておくれ。
お兄さん、元気でいておくれ。
大好きだったお兄さん、喧嘩ばかりしていたけれど、こっそりお菓子を私にくれたお兄さん。
私のことを一番可愛がってくれたお兄さん。
昨日、部屋で大きな蜘蛛を見かけたよ。
お兄さん、元気でいておくれ。
お姉さん、元気でいておくれ。
大好きだったお姉さん、私を連れ回し友達に自慢の兄妹と紹介してくれたお姉さん。
私のことを一番褒めてくれたお姉さん。
昨日、目が見えなくなったよ。
お姉さん、元気でいておくれ。
弟よ、元気でいておくれ。
大好きだった弟よ、私が外へ遊ぶ度、僕も一緒に行くよと、健気に着いてきた弟。
私のことを一番頼りにしていた弟よ。
昨日、足をくじいたよ。
弟よ、元気でいておくれ。
妹よ、元気でいておくれ。
大好きだった妹よ、私が買い物の度、これを買ってとねだっては抱きついてきた妹。
私のことを一番素敵と言ってくれた妹よ。
昨日、最後のマッチがなくなったよ。
妹よ、元気でいておくれ。
祖父よ、元気でいておくれ。
大好きだった祖父よ、家に帰ると誰よりも一番におかえりと言ってくれた祖父。
私のことを一番誇りに思っていた祖父よ。
昨日、薬が無くなったよ。
祖父よ、元気でいておくれ。
祖母よ、元気でいておくれ。
大好きだった祖母よ、私にこれを食べてあれを食べてとたくさんの料理をくれた祖母よ。
私のことを一番慰めてくれた祖母よ。
昨日、カビた食パンを食べたよ。
祖母よ、元気でいておくれ。
思い返せば、元気でいて欲しい人が多かった。
元気がある人、元気がない人、その全ての人に私は願う。
元気でいておくれ。
元気でいておくれ。
友達よ、元気でいておくれ。
先生よ、元気でいておくれ。
知らない人も、元気でいておくれ。
私の愛した人も、元気でいておくれ。
元気、元気、元気が一番。
張り切る全ての生命の、燦々と輝く様に、私はもう一度、元気でいておくれと思う。思いを馳せて、願いになる。
誰かが倒れた。
誰かが捕まった。
誰かが刺された。
誰かが撃たれた。
どこかで犬が鳴いた。
どこかで猫が笑った。
どこかで烏が歌った。
私の横を、何かが歩いた。
そこら中に散らばったチリやホコリを数えて、その数が百を超えた時に、ようやく、私は私の痛みに気がついた。ただ私が痛みを堪えることはなかった。痛みに心は負けていた。
自転車を漕ぐ音が聞こえた。
何時までも、二人でこうしていたかった。
いつかはあの人たちと別れる時が来るとは思っていた。早すぎるとは思うが、それは仕方がないことだと分かっていた。
仕組みはそうなっていたのだから、仕方ない。
元気でいておくれ。
少なくとも、私以上に。
元気でいておくれ。
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