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天使たちのメトロ

空を見上げて、東京って言うほどゴミ臭くないなって思って、ぱこーんと信号の色が変わったので人混みに押されて歩き出したら、足元のすぐ側をネズミが駆けていきました。朝です。

路地を出て煙草を吸う。この時期の火はあったかくてありがたい。突然冷たい風が吹き、そこでライターの寿命も尽きてしまった。吸殻を踏み潰すとき、私は自分の悪行から目を背けたくて空を見ている。曇天。

そういえば高校生の時、授業を抜け出してその辺の芝生まで出て、好きな音楽を流しながら昼寝したりツイッターでニートのネッ友と通話したりしていたけど、あの地面も誰かの吸殻や痰やゲロやその他もろもろが染み付いてるんだろうな、昔の思い出に泥を塗る。あの時、実はああだったんだ、を知るたび、大人になってよかったと大人になんかなりたくなかったがせめぎあう。

世田谷に一人、可愛い破損物だらけの狭い部屋に住んでいる。青森の田舎から東京に出てきたひとりぼっちの私は、酸いも甘いもこの部屋と共有してきた。条件のいい物件を探しても、結局はここでいいやと放り出す。いつしか愛着が芽生えていた部屋は、私と一緒に経年劣化していく。剥がれた壁紙も外れた網戸も私が弁償費用出さなきゃいけないんだよなあ、考えれば考えるほど引越しができない。

高校時代、汚い芝生に寝転んで、「見て、こっちの空!」って写真をDMで送りあったハンドルネームRさんは、私が上京する頃亡くなったらしい。
ツイートが、死を仄めかす内容のもので途切れている。

意味もなく東京の空の写真を撮ろうとして、立ち止まる。どうしても高層ビルが空に写りこんでしまう。通行人に背中をどつかれて、横断歩道を流されるまま歩いていく。
新しい広告、ショーケースの中の新しいワンピース、新作発売の文字、東京は自由気ままに姿を変え、無尽蔵に金を使って遊ぶ。私は、本当はこんなつもりじゃなかったのに、デパコスひとつ買えず煌びやかなパッケージを見つめている。

常夜灯をひとつ点けた部屋でツイッターを眺める。ベッドに寝っ転がりながら、人様の人生の一部を見せてもらっている。私は私が平穏に生きるために辞めなくてはいけないことがいくつかあるのだけれど、その中のひとつにネットのサーチはある。多くの場合楽しめるが、勝手に見にいって勝手に不愉快になるのは全面的に私が悪い。

私はここでターンエンドです。あとはAIがやります。先生に見つからないように授業を抜けて、下駄箱で靴を履き替えながら見る外の景色の鮮やかさって、AIにもわかるのかな。
何度も何度もあの夏をやり直して、学習させたい。

住みたいところはワルシャワです!

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