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昆虫本の書評(昆虫本編集者のひとりごと)06『増補版 寄生虫図鑑』

「寄生虫」は環形動物などで、昆虫ではないが、系統的に近い生き物のようなので、紹介してみようと思う。

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全体の感想

目黒寄生虫館という公的機関がずいぶん思い切った本を書いたなと思ったが、著者はフリーランスのライターの方。東大大学院生物学の修士課程を出ている人だった。

冒頭の監修者の言葉で「世界で1番美しいビジュアルブック」とあるが写真は一切載ってなかった。

全ページモノクロで、点描イラストだ。生体描写、またはダビデ像の鼻の穴からヒルが飛び出すなど、面白い描写が全種類に載っている。

図鑑とあるが、各種の細かな特徴が記載される訳ではなく、ストーリー形式で、面白く、わかりやすく、この生き物を知らない人が興味を持ってもらうような作りになっている。

これだけたくさんの点描をよく書いたと感心する。自分もイラストを描くので、その苦労や膨大な時間は推測できる。
スタジオ4畳半というのがあって、ライターもイラストレーターもそこに所属している人たちだった。

ざっと内容について

環形動物、扁形動物、節足動物など、全部で48種が紹介される。この種の生き物はおそらく膨大にいると思うので、紹介するにふさわしい面白いものを厳選して掲載したようだ。

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紹介スタイルは教科書的に、それぞれの種の形態や生態や分布または生理、進化といった仕方ではない。

一人の人間がその生き物に出会った印象を語りだすところから始まる。

徐々に話は生き物の特徴にフォーカスしていき、最終的にその特徴の際立った箇所が印象的に紹介される。

また特徴を詳しく紹介するというより、それにまつわるエピソード、例えば人に寄生したらどうなるか、駆除するためにどうしたか、研究者がどのような調査をして実験をしたかなどが主な内容だ。

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見出しも特徴を際立てつつ魅力的になるような工夫がされていて、楽しみながら執筆した印象。

この分野のことを少し知っている人であれば、新しい知識を得るという意味では物足りない面もあるだろう。

ただこの本は、ほとんどまたは全くこの生き物のことを知らない人たちに向けたものだろう。その意味ではすごくよくできていて、本作りの参考になる。

読後の感想

参考文献は日本の出版物に限り、英語論文は入っていない。科学的な正確さ厳密さはある程度犠牲にして、読みやすさ面白さを重視したようだ。

本文130ページ程度、本体2300円というのはやや高額な印象。
おそらく、扱ったテーマ、イラスト点数、ハードカバーなど、本の性格、コストを鑑みた価格設定かもしれない。

でもすぐに重版したようで、売れているようだ。

文字サイズが通常の本よりも結構小さい。書体を少し味わいのあるものに工夫してあるが、メガネを使っても見づらい人がいるかもしれない。

「増補版」とあるが、以前に飛鳥新社から旧版を出していたようだ。

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