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昆虫本の書評(昆虫本編集者のひとりごと)12『昆虫科学が拓く未来』

2009年、京都大学出版会、580ページ、4800円+税

完全に研究者または関係学部の学生向け、という印象のタイトル。内容もsoの通りで、専門性の高い章ばかりになっています----と言ってしまいそうでうが実際に読んでみると。。。

ざっと内容について

専門書であるにかかわらず、それぞれの章、いずれも文体は一般を意識した、優しいものになっています。

専門用語もあまり多くはなく、解説も割と専門外の人にわかりやすくなるよう書いているようです。

全19章で、他にも多くのコラムを掲載。

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一つ一つの章が十分な情報量を持っており、昆虫ファンにはとても充実した読書体験を得られると思います。

内容については、主に人間の生活や産業と関わりのある昆虫たちを取り上げています。

害虫と呼ばれる昆虫、シロアリハダニ、キクイムシなどを取り上げ、その生理・生態を細かに解説し、人間に対する害をいかに少なくできるかというパターンが、全体の章に渡って通底していると言えるでしょう。

そのため、進化や面白い生態など、人間生活と関わりのない話題は少なくなっている印象です。

しかし、広く多くの昆虫についての話題を収録してくれているので、高額ですが、とても楽しめると言えるかと思います。

例えば、シロアリは卵にグルーミングして抗菌しているのと同時に、眼を持たないシロアリは卵を識別するために、グルーミングの際に化学物質を塗布している話題などは、微生物による卵の擬態というエピソードとともに、非常に面白く一気に読み通しました。

実際に調査に行って昆虫を採集し、分析に当たっているとうの本人による話なので、具体的で熱量も感じられるので、このようなことも、より充足した読書体験に繋がっているかという印象です。

ただ、生化学の専門的な話題や表記など一般には理解できない箇所も多く、また図は多いのですが学術論文のものをそのまま貼り付けたものがほとんどで、わかりづらいものばかりになっています。

応用昆虫学はじめ生物学の学部生などが想定読者となる本と言えるかもしれません。

やはり昆虫の本なので、カラー写真をいくつかあればよかったなという印象も残りますね。

読後の感想

タイトルやカバーの世界観からは、非常に専門的で、昆虫科学の社会への貢献というポイントをかなり強く意識した作りだなという印象でした。しかし、内容はそれほど強い社会貢献というものではなく、紙面のほとんどは昆虫たちの生態や生理などに費やされ、一般の昆虫ファンも楽しく読めるものではないでしょうか。

これだけ広く、多くのボリュームで4800円+税は高くなないでしょう。

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