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昆虫本の書評(昆虫本編集者のひとりごと)01『アシナガバチ一億年のドラマ』

ちょうど今、寄生バチの本を編集担当しているので、参考にと思い、本書を購入してみた。

2001年8月発行と、やや以前の本。著者は北大出身で昆虫社会学の専門家・山根爽一博士。

全体の感想

全体的な感想からいえば、やや専門性が高いが、学術用語はほぼ出てこないし、論文的な言い回しでもないので、読みやすかった。

本書から期待していたのは、アシナガバチはじめ狩りバチの進化やいろいろな珍しい生態、巣作り、狩りの仕方などだったが、この期待は半分叶えられたかな、という感想だ。著者自身の調査をもとにした、いろいろな生態の紹介や進化シナリオは面白かったが、まだ進化の道筋をはっきりさせるには未知のことが多いようだ。

また、随所に著者の調査報告が紹介されている。確かにこういうのがあると臨場感が伝わってくるが、あまり多いと読み手の関心から離れていってしまうようで、コラムにまとめてもらうなどしてもらうとありがたい。

ざっと内容について

まず有剣類の進化について、ざっと紹介。狩りバチとハナバチの違い、食性が植物から寄生による肉食に変わったこと、巣作りの進化など。

それから、祖先的なハチ、ハラボソバチのスマトラ島での調査の紹介。調査方法などがかなり詳しく紹介されている。いかに社会性が進化したのかを、このハチを通して考えるのが狙いのようだ。

次にいよいよアシナガバチについて。営巣の具体的な記述、いろいろなアシナガバチの社会性、カーストの仕組みなど。特にオーストラリアのチビアシナガバチなど、いくつかの現地のハチはかなり詳述されている。

オーストラリアの次には、ブラジルでの調査を紹介。ブラジルの乾燥地域、セラードという地域は狩りバチの宝庫らしい。ここでは営巣の仕組み、巣分かれの進化が主題。複数の女王バチが共に暮らす、巨大コロニーの仕組みや進化が紹介されている。

アシナガバチでは複数の女王バチがコロニーをつくるのはよくあることらしい。というのも、女王の産卵能力が低いからのようだ。それは卵巣の仕組み自体に起因しているようだ。

次に紹介されるのは、カーストについてだ。いろいろなアシナガバチにおける、カーストの仕組みの違いが紹介されている。特に体の形態の違いにスポットが当てられている。

その次は、狩りバチお社会性がいかに進化したかをとく鍵となる、巣の仕組みついての解説。

いろいろな巣の構造の紹介のなかに、珍しい仕組みをもつものを紹介している。

例えば、ハグロヒメハラボソバチは、育児室に傘状のものをつけて、アリなど捕食者から守る。ヒメホソアシナガバチは「アリ忌避物質」という特殊物質を自ら分泌して、アリから防御する。

最初は泥の利用から始まった狩りバチの巣作り技術だが、それが植物を利用するようになる。ただ、この植物利用の段階では、巣自体はもろい。糊物質を分泌できるようになって、堅固な巣作りが可能になるようだ。それは、餌のタンパク質を利用できるようになったアシナガバチとスズメバチの出現をまって可能になったとされる。

最後に紹介されるのは、いかに狩りバチの社会性が進化したかを、いくつかの仮説をもとに解説している。

読後の感想(編集者的な)

アシナガバチはじめ狩りバチの専門家による、狩りバチ社会性の実像を描写しようとする一冊。

「狩りバチとは?」「昆虫の社会性の進化とは」といった素朴な疑問に答えるというよりも、調査の詳述を通して具体的に描写している。

その面で狩りバチをあまり知らない人にとってはハードル高い印象だ。

調査ノートなど掲載あるが、英語だし、乱筆で読めないし、これいる?と感じてしまうが。。。

でも、調査時に撮影した写真は圧倒されるような迫力あるものが、多数載っている。すべてモノクロ写真だが、臨場感が結構伝わってくる。



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