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異動辞令は音楽隊

内田英治監督、阿部寛主演の「異動辞令は音楽隊!」を見た。阿部寛演じる昭和の雰囲気を漂わせる刑事が音楽隊への異動を命じられる。コンプライアンスなんて言葉が通じない「刑事一筋30年」の熱血漢がハラスメントの投書がもとで畑違いの職場へ追いやられ、事件捜査から外される、という所から話が始まる。面白かった。その理由はいくつかある。ネタバレにならないように気をつけて書いてみよう。

ひとつには主人公の成長だ。異動をきっかけにベテラン刑事がその年齢にもかかわらず人として成長する様は、人間はいくつになっても変わることが出来るのだと希望を持たせる。そして成長がもたらす家族や周囲との人間関係の変化もしっかりと丁寧に描いている。

もうひとつは音楽隊の成長だ。今時の「そこまでして頑張らなくても」という場の雰囲気の中に、意外にも心を改め、素直に協力を仰ぐ成長した主人公の姿が、集団に変化をもたらし、ひとつにまとまっていく。その様子は「ベタ」なのかもしれないが、見ていて心地良い。

またベテラン刑事の「古き良き時代」の価値観や捜査の手法と後輩刑事のそれとを対比させながらも、どちらかを否定するのではなく、コンプライアンスを重視せざるを得ない時代ゆえのジレンマとして描いている。これは警察に限らず、他の多くの組織にも当てはまる一般的なテーマに思えて、共感できる。

主要な登場人物の描写も一面的にならず、ストーリーに厚みと説得力を与えている。様々な人間模様の描き方も小気味良く、複雑になり過ぎない程度のプロットにまとめられている。更には結末に向かって伏線回収の爽快感も味わえるエンターテイメントに仕上がっている。

最後に付け加えるなら、キャスティングだろう。この映画は阿部寛によって成り立っているように思える。演技云々ではなく、その存在感というかそのたたずまいが、この映画にぴったりなのだ。

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