キンタロウ
昔々、足柄山というところに金太郎という名の男の子がいた。
山奥で母と二人で暮らす金太郎は、自然に囲まれて慎ましく暮らしていた。
遊び相手は山の動物たち。
特に相撲は負けなしで、大力の熊でさえ敵わないほどの強さだった。
それでも心の優しい金太郎は、山のどの動物にも好かれていた。
ある日、その足柄山に、一頭の馬が迷い込んだ。
その痩せて疲れた馬を見つけた金太郎は、近寄って話を聞いてやった。
馬は掠れた声で言った。
「主人とはぐれ、道に迷い、飲まず食わずでもう幾日… もう限界です…」
それを聞いた金太郎は、家の庭に連れて帰り、世話をしてやることにした。
馬は、二日としないうちに、家にあった干し草をすっかり食べ尽くしたが、それでもまだ回復しなかった。
そこで金太郎は山中を駆け回り、新しい干し草を集めて馬にやった。
すると、一日と持たずに食べ尽くしたが、それでもまだ回復しなかった。
そこで金太郎は山の仲間の動物たちに頼み込んで、それぞれが持っている食べ物を分けてもらうことにした。
動物たちは大好きな金太郎の頼みとあって、二つ返事で食べ物を分けてやった。
すると、馬は山盛りになった食べ物をペロリとすぐに平らげたが、それでも少し元気になっただけだった。
金太郎は困ってしまい、馬にどうしてほしいか聞きてみた。
すると馬が言った。
「あなたの強さを分けてくれたらすぐに元気になりましょう。ぜひ分けてください」
「分けてやると言ったって、一体どうしたらいいのだい?」
「分けると言ってくれればそれでいい。あとはこちらでいただきましょう」
金太郎はよくわからない気持ちだったが、馬が元気になるなら大したことはないと感じた。
そこで「お前が元気になるのなら、俺の強さをやろう。さあ、どうするのだ?」と答えた。
すると、痩せこけていたはずの馬がみるみる大きくなって、それを見て驚く金太郎をあっという間に自分の中に取り込んでしまった。
金太郎が気がつくと、自分の身体がこれまでよりはるかに逞しくなっていた。
しかしそれ以上に驚いたのは、腰から下が上体よりもさらに逞しい馬の身体になっていたことだった。
庭の騒々しさに驚いた金太郎の母親は、目の前に現れた人馬に驚き、恐れた。
あまりの変貌ぶりに、それが我が子、金太郎であるとは到底思えなかった。
「あなたは誰⁉︎」
金太郎はその母の様子に戸惑い、恐れ、そして焦りを覚えた。そして我が名を叫んだ。
「金太郎です!」
しかし、母の耳に届いた声は、足柄山に響き渡った唸り声は、全く違う名となって山中にこだました。
「ケンタウロス!」
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