おにごっこ
「せんせー、おにごっこしよー!」
おませでおてんばなリコちゃんが誘ってきた。
走るのに自信はないが、この子たち相手なら大丈夫だろう。
はっきりと返事をする前に、リコは「こっちこっち!」と誘導する。もうおにごっこすることになっているようだ。
リコに連れて行かれた先には、4人の子どもが待っていた。
5人の顔を見回す。
「じゃあ、ボクが鬼でいいかな?」と聞いた。きっとみんな逃げて走りたいだろう。
すると、リコがピシャリと言った。
「ううん、せんせーは大人だからエンマさま」
「閻魔様?」
「そ、で、4人はそれぞれオニで、ワタシはエンマさまの番人」
「え?あ、あの、え?」
こちらの困惑などお構いなく、リコは4人に向かって言った。
「じゃあ順番にエンマさまのところに来てお話してね」
どうやら困惑しているのはボクだけらしく、リコはもちろん、4人も何の戸惑いもなく配置についた。
「じゃあ、ボクから」と手を挙げて前に出てきたのはショウだ。
ショウが、「泣き虫オニです!」とリコに向かって言うとリコはいつの間にか横向きに手にしていたプラスチックの棒(通せんぼする形だ)を縦に向けながら「よし、入れ!」と言った。
ショウは「ありがとうございます」と言ってボクの前に進むと、片膝をつく体制で向き合った。
「イヤなことがあった子どもを泣かせるのが仕事なのには最近ショウは泣かなくなりました。泣き虫オニなのに泣かなくて困っています。どうすればいいですか?エンマさま!」
ショウは最近気持ちが強くなった。
確かに以前入れ泣き虫だったけど、最近は泣かなくなった。強くなったなぁ…と感慨に浸る。
すると、横からリコの厳しい声が飛んできた。
「エンマさま、オニが悩んでいます。何かアドバイスをお願いします!」
「え、閻魔様?」
「せんせー、エンマさまだっていったでしよ!しっかりしてよ!」
え、いや、え?なんだこれは?
おにごっこじゃないのか?
閻魔様として鬼にアドバイス?
ショウの後ろに目をやると、タク、ユキ、コウが自分の順番を楽しみに待っているのが映った。
そして、隣では、リコがモジモジするエンマを急きたてるように睨みを利かせている。
閻魔様のボクは一つ咳払いをして、泣き虫オニに向き直った。
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