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あさがお観察カードに並んだ点々の意味。

その日の生活科の学習の時間は、一人一人自分の植木鉢に植えたあさがおの成長の様子を観察カードに記入する活動だった。

るかちゃん(仮名)も今日は、こちらに顔を向けて静かに話を聞いている。

るかちゃんはダウン症の児童だ。
支援学級に在籍していて、まだ自分で平仮名を書いたり、感じたことを文章に表すことが難しい。

国語や算数の時間は、支援学級で彼女に合った内容やスピードで、支援学級担任の先生と学習している。
そして生活や図工、体育、給食といった国語算数以外の学級で過ごす際は、支援学級の担任や介助員と呼ばれる先生が彼女のそばについて、活動の見守りやサポートといった支援をしてもらっている。


その日も彼女の支援の担任のK先生が彼女のそばについて、「何を書こうか?」と彼女とやり取りをした。そして一緒に考えた言葉を、るかちゃんがなぞれるように薄く赤鉛筆で書いた。

「はっぱがふえました」
るかちゃんは、それをはみ出さないように丁寧になぞった。
なぞり終わり、
「ん。」
と言いながら、そのプリントを見せてきた顔はどことなく得意げで可愛らしい。

今日は、「やりたくない」といった拒否の姿勢を見せず、スムーズに取り組めて一安心、そう思いながら、るかちゃんから目を離す。

しばらくして、彼女を見るといったん筆箱にしまった鉛筆をまた出して、すごい勢いで観察シートの下の行に、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
と点々を書き続けている。

それを横目に見ながら、あ~先に集めておけばよかった…なんて思いながら、何を書こうかしばらく鉛筆が止まったままの子のサポートに回った。


数日経って、学期末の懇談でるかちゃんのお母さんが来校された。
教室の前の廊下に掲示された、先日子どもたちが仕上げたばかりの「朝顔観察カード」をじっと見ている。

ああ、折角上手に書けたのにこの下の点々、消させれば良かったかな、なんて思っていたとき、横にいたるかちゃんの支援学級の担任のK先生が口を開いた。

「るかちゃん、朝顔が成長している様子を見るのが面白かったようで、水やり頑張っていましたよ~。観察カード、周りのお友だちが、行の最後まで埋めているのを見て、『わたしも!』と思ったんでしょうね。るかちゃんは、周りの様子をよく見ていますから。
この文章以外にも、他にも書きたいことがあったのかもしれませんね。この点々には、言葉にならないるかちゃんの書きたい気持ちが溢れているなあ、と思ったのでそのままにしました。」

そう聞くと乱雑に並んだ、ただの点々がより愛おしく見えてきた。
その話を横で聞いている、るかちゃんのお母さんも「そうですか。」と微笑んでいるので、きっと同じような気持ちになったに違いない。

さすが、支援の担任の経験が長いK先生…。
わたしは、そこまで考えが至らなかったな。

もしわたしが、るかちゃんのサポートをしていて、点々をたくさん連ね出したら、どう声をかけたのだろう、とふと考えた。

安易にその点々を「落書き」ととらえて、消さそうとしたと思う。

「わあ、綺麗に書けたね。でも折角丁寧になぞったんだから、その点々は消しゴムで消そうか。」
なんて言いながら。
落書き、がなされたプリントはなんだか、見栄えが悪いから。

そしてもし、こちらが消そうとするものならば、るかちゃんは、かんしゃくを起こしたかもしれない。


「子どもに寄り添う」「子どもの目線で」
子どもたちとの関わり方の理想として、しばしばそんな言葉が挙げられる。

わかってはいるけど、ついつい無意識に大人の目線や都合で考えちゃったりするんだよなあ…。

子どもに寄り添う、とはこちらの豊かな想像力であり、ゆったりと構える大人の余裕である。
一番大切なことだけど一番難しいのだと、あさがお観察カードに並んだ点々を見返しながら、改めて思ったのだった。

#小学校の先生


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