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成30年司法試験・民法・設問2・解答に挑戦

平成30年司法試験・民法・設問2・解答に挑戦
第2 設問2
1、小問(1)
(1)Dの甲トラックの所有権について
ア、甲トラックが無権限でE所有の丙土地に放置されていることから、Eは丙土地の所有権に基づく妨害排除請求権を行使している。丙土地への侵害は一応、占有によるものであるが、甲トラックは移動可能であり、恒久的な侵害ではないところ、返還請求権ではなく妨害排除請求権となる。これに対し、Dのアの発言が正当といえるためには、甲トラックのD所有権は形式的な物であり、実質的所有者ではなく処分権限がないことから、Eの妨害排除請求権の対象にはならないことを示す必要がある。
イ、Dの所有権の根拠となるのは、A・D間の甲トラックの売買契約である。
具体的には、DはAに対し、甲トラックを売り、引渡した。しかし、Aは前代金のうち頭金しか払っておらず、残代金は分割払いにしている。Aがこの分割払いを怠り、期限の利益を喪失しないかぎり、実質的所有権を有する。他方、Dは道路運送車両法5条の登録をしているが、この所有権はAが分割払いを継続する以上、残代金を被担保債権として担保的機能を果たすに過ぎず、実質的な所有権を有していない。いわゆる、Dは甲トラックの経済的価値を把握するだけの所有権留保権者に過ぎない。
ウ、Dが上記のような形式的な所有権しか持たないことから、甲トラックを移動するなどの処分権限を持ちえず、Dのアの主張は正当といえる。
2、小問(2)
(1)Eの請求が認められるためには、所有権留保責任者にすぎない者であっても、甲トラックを撤去する義務がDに認められなければならない。
(2)Eは、Dが道路運送車両法5条の登録を受けており、法令上、甲トラックの所有者であることを理由に甲トラック撤去の義務を負っていることを主張する。これに対し、Dは同法5条の登録を有しているが、A・D間の売買契約によって、実質的所有権を放棄しており、甲トラックの移動などができる処分権を有していないことを主張することになる。
(3)しかし、EはDに対し、甲トラックの移動を請求をしているだけで、甲トラックの所有権をめぐってEとDは対抗関係にあるわけではない。とすれば、
そもそもEは道路運送車両法5条の登録を理由にして、Dに対し、甲トラックの処分を請求できないとも思える。ただ、このような結論でよいのか。EとDの利益状況について比較衡量するべきであると考える。
(4)建物を売却した後も登記を有している建物の前所有者に対して、建物が建っている土地の所有者が、当該前所有者が登記を有していることを根拠に建物撤去、土地明渡を求め、それが認められた平成6年判例が参考になる。同判例においても、建物登記保有者と土地保有者の間で、建物所有権の帰属について対抗関係にはない。しかし、土地保有者にとっては、当該土地の利用権を妨害されていることから、建物の所有者には重大な利害、関心を持つ。したがって、建物による土地利用権妨害の問題は、建物所有権の対抗要件と類似の関係とみることができる。また、建物登記保持者が売買によって、実質的な所有権をないことを理由に建物明渡を免れるならば、土地所有者は所在不明の建物の実質的所有者について困難な探求を強いられる。責任を免れる建物登記保有者と土地所有者の利益衡量をすれば、土地所有者の不利益は明らかである。また、建物登記保有者は登記移転の義務を怠っている。とすれば、建物登記保有者は、
土地保有者の請求を拒めないと考える。
(5)平成6年の判例の射程は本問においても及ぶと考える。もっとも、本問の場合、土地所有者の権利を侵害しているのは、動かそうと思えば移動ができるトラックという動産であることや、土地利用侵害の範囲は甲トラック分の範囲と狭いことであるが、建物と同様に土地の侵害をしている点は同じである。
Dが甲トラックの実質的所有権がないことを理由に、撤去を免れるならば、Eは、行方不明のAの探求の困難さを強いられることになる。また、売買関係を有しているDがAの所在を知らなければ、Aとは無関係のEはAの所在を掴むことはできない蓋然性が高い。したがって、Eの撤去要請をDは平成6年判例と同様に、拒むことはできない。
(平成30年司法試験・民法・設問3関連基礎知識へ続く)

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