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令和元年司法試験・民法・設問3関連基礎知識

令和元年司法試験・民法・設問3関連基礎知識
【錯誤の条文】
これはつべこべ言わず暗記
95条
1項=意思表示は、次に掲げる錯誤であって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なであるときは、取り消すことができる。
1号=意思表示に対応する意思を欠く錯誤
2号=表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2項=前項2号の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されているときに限り、することができる。
3項=錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しはできない。
1号=相手方が表意者の錯誤を知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
2号=相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4項=善意かつ無過失の第三者に対抗できない。
【動機の錯誤による意思表示の取消し】
→適用条文=95条1項柱書、95条1項2号、95条2項
【判例】
1、最判平成1年9月14日
【事案】
1、東京都内の銀行員X男(原告、控訴人、上告人)は昭和37年、Y女と結婚し、鉄筋コンクリート造り3階建ての住宅で暮らし、3人の子どもを設けた。
2、しかし、X男が部下のA女を関係を有したことなどから、Y女は離婚を申し入れ
3、X男は銀行の身分を失うことを恐れて、Y女の申し入れを承諾。
4、Y女は上記住宅で子どもら暮らすことを望んだので、X男は、遺産分割として上記住宅の譲渡を決意。しかし、自己の2億2000万円の贈与税が課せられることをしらず、むしろ、Y女の多額の所得税がかかることを心配。
5、X男は上記財産分与が要素の錯誤にあたるとして、同財産分与は無効(現在、取消し可能)と提訴したが、1、2審とも敗訴。しかし、最高裁で動機の表示は黙示のもので足りるとされ、認められた。
→二審差し戻し審
原判決を取り消す。
被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(二)、(三)記載の各建物につき、東京法務局新宿出張所昭和五九年一一月二九日受付第四三六六七号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は、差戻し前に生じた費用を含め全部被控訴人の負担とする。
【要旨】 〔裁判所ウェブサイト〕
協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において、右契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、●夫の右課税負担の錯誤に係る動機は、妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべきである
2、反社企業への保証事件=最判平成28年1月12日
【事案】 本件は,M銀行である原告が,東京都信用保証協会である被告に対し,原告が、指定暴力団住吉会傘下のO建設に金銭を貸し付け,被告がこの小倉建設の借入れによる債務を保証したとして,保証契約に基づき,6378万1192円(貸付残元本6340万7000円並びに平成23年3月2日までの利息19万1763円及び同月3日から同年5月1日までの確定遅延損害金18万2429円の合計)及びうち残元本6340万7000円に対する訴状送達の日の翌日である平成23年9月9日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 これに対し,被告は,主債務者であるO建設が反社会的勢力に関連する企業であったにもかかわらず,被告においてそのような企業ではないとの認識の下に上記保証契約を締結したものであるから,同保証契約は,錯誤により無効であるなどと主張して,原告の請求を争った。
〔最高裁判所民事判例集〕
1. 信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,上記保証契約の当事者がそれぞれの業務に照らし,上記の場合が生じ得ることを想定でき,その場合に信用保証協会が保証債務を履行しない旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であったにもかかわらず,上記当事者間の信用保証に関する基本契約及び上記保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないなど判示の事情の下では,債務者が反社会的勢力でないことという信用保証協会の動機は,明示又は黙示に表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,上記保証契約の内容となっていたとは認められず,信用保証協会の上記保証契約の意思表示に要素の錯誤はない。
2. 金融機関が,主債務者が反社会的勢力であるか否かについて相当な調査をすべきであるという信用保証協会との間の信用保証に関する基本契約上の付随義務に違反して,その結果、反社会的勢力を主債務者とする融資について保証契約が締結された場合には、上記基本契約に定められた保証債務の免貴条項にいう金融機関が「保証契約に違反したとき」に当たる。
【蛇足的評価】
 今回、最高裁は信用保証協会の錯誤無効の主張を排斥した。この点、信用保証協会が求償権を被担保債権として主債務者の不動産に抵当権を設定しているような事例で、仮に保証契約の錯誤無効が認められてしまうと、被担保債権の求償権が発生しないこととなり、附従性から抵当権も無効となってしまう。そうすると喜ぶのは主債務者=反社会的勢力だけで、言わば、信用保証協会と金融機関が争っている間に反社会的勢力が「漁夫の利」を得てしまう、と心配されていた。今回、最高裁が錯誤無効を認めなかったのは、この点からも妥当な判断と評価できる。へ~、被告にはつらい判決だが、求償できる点でむしろ、よい判決?
【債務引受】
472条
(免責的債務引受の要件及び効果)
1項=免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
2項=免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3項=免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
語呂→友人が免責的債務引受けしてくれたので、私は死なずに(472)済んだ
参考
(併存的債務引受の要件及び効果)
470条
1項=併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。
語呂→友人が債務をともに引受てくれたので、取りあえず死なない(470)。
(令和元年司法試験・民法・設問3・解答に挑戦に続く)

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