平成30年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦

平成30年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦
第1 設問1
1、松茸盗難の帰責性
 Bは本件売買契約(555条)に基づき松茸5キログラム(以下、本件松茸という)をAに引き渡すことにしていた。しかし、Bが本件松茸を乙倉庫に保管していたところ、何者かによって盗まれたため、Aに引き渡すことができなくなった。本件松茸の盗難がBの責めに帰す事由による場合はもちろん、A、B双方の責めに帰す事由でなかった場合、Bは代金支払の履行をする必要はないことになる(536条1項)。そこで、この盗難がいかなる事由によるものか、検討する。
2、目的物の特定
 まず、本件松茸が売買の目的物として特定されているか、を検討する。本件売買契約は、買主Aが売主Bの乙倉庫へ出向き、そこで本件松茸を受け取る取立債務であった。取立債務の場合、債務者が目的物の分離、準備した上で、債権者に通知をした時点で売買の目的物が特定すると考える。本問では、Aは本件松茸の分離、準備を終えて、Bに通知していることから、本件松茸は特定物である。
3、本件松茸の保管と盗難の経緯
 AはBに対し、本件松茸について通知したが、Bは自己のトラックがなくなったため、同トラックで乙倉庫に出向くことはできなくなった。この事態をBはAに告知したが、引渡し日の延期について合意はしなかった。このため、Aは本件松茸を乙倉庫に保管することにした。実際の保管行為は、Aの手伝い人であるCが行った。Aは、最近、農産物の盗難が多発していることから、Cには本件松茸を乙倉庫に保管する際には、日ごろ、一つの施錠しているが、盗難防止のため、二重の施錠をするよう、命じた。ところが、Cはうっかり、本件松茸を保管する際、二重の施錠をすることを忘れ、一重の施錠しか行わなかった。そして、翌日、Aが乙倉庫から本件松茸を取り出そうとしたところ、施錠が破られ、本件松茸は盗まれていることが分かった。この経緯から、本件松茸の盗難は、二重の施錠していたら、盗難を免れた可能性もあり、Cのミスによる側面があることは否定できない。また、Cは、Aの債務履行を手伝う履行補助者であり、履行補助者の責任は、債務者本人の責任と同視できると考える。
したがって、Cの責任はAの責任に同視できる。この事実から、Bが本件松茸の代金支払の反対給付をする必要がないとも思える。
3、受領遅滞の効果
 もっとも、Bは本件松茸の売買において、トラックがなかなっても、ほかの車両などを借りて乙倉庫に行けたにもかかわらず、受け取りをしなかったことは受領拒絶にあたり、受領遅滞を起こしている。413条1項によれば、受領遅滞を起こした場合、債務者の管理義務は自己の財産に対するのと同一の注意で足りる程度自己の財産に対するのと同一の注意で足りる程度に軽減される。このため、債務者B側が本件松茸を乙倉庫に保管にする際、善管注意義務まで求められることはなく、自己の財産に対するのと同一の注意義務まで軽減され、一重の施錠で十分であったと言える。
4、特定物の売買における危険負担
 567条1項によれば、特定物の売買において、目的物の引渡しが売主、買主の双方の帰責できない事由の場合、買主は代金の支払を拒むことができない旨を規定している。本問においては、本件松茸の売買は、前記2で記述した通り、特定物売買にあたる。また、Bは本件松茸を受領を許否により受領遅滞を引き起こしており、本件松茸の盗難はA、B双方の帰責できない事由の場合と言え、Bは代金支払を拒むことはできない。
 したがって、AはBに対し、本件松茸の代金を請求できる。
(平成30年司法試験・民法・設問2関連知識へ)

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