平成28年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦

平成28年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦
第1 設問1
1、小問(1)
(1)EはA及びDに対し、甲土地の所有権移転登記手続を請求できるためには、その根拠としてEが甲土地の所有権を有しいなければならない。Eが甲土地を所有権を有するに至ったのは、次の通りである。甲土地の所有権はそもそも、未成年Cに帰属していた。父親Aは長男Cの親権者として法定代理権(818条1項、824条本文)を有しており、この法定代理権によってCは有効に甲土地をEに売却した(555条)。その後、Cは死亡した。この死亡により、AとCの妻Dは売主Cの地位を包括承継した(896)。AとDの甲土地について債務は不可分債務(430条、436条)であり、AとDは各自がEに対し、甲土地の所有権移転登記義務を負う。したがってEはA及びBに対し、甲土地の所有権移転登記手続を請求できる。
(2)もっとも、父親Aが自己の借金の返済のため、長男Cの所有地たる甲土地をEに売却する行為は、親子間の利益相反行為(826条)ではないか。親権者の法定代理権による未成年の子どもの法律行為の代理が、利益相反行為にあたるかどうか、を判断する基準は、行為の外形的・客観的行為だけを考察し、
親権者の広範な裁量権の観点から、親権者の意図は考慮しないことを前提として、親子間の利益相反があるかを検討するべきと考える。本問においては、長男Cの甲土地をEに売却されており、CとEの間に利害対立があるが、CとAとの間には利益相反はない。
(3)では、Aは自己の借金の返済という自己の利益のため、C所有の甲土地を売却しており、代理権の濫用(107条)にあたらないか。107条によれば、代理人が①自己又は第三者の利益を図る目的で代理行為をしたこと②相手方がその目的を知り、又は知らなかったことに過失があった場合は無権代理行為とみなす旨を規定する。また、代理人が親権者の場合は、親権者が子どもに対する広汎な裁量を持つことから、法が親権者に代理権を与えた趣旨を著しく超える特段の事情時があるときは、代理権の濫用にあたると考える。本問では、
買主Eは、Aが遊興を原因として多額の借金抱え、土地売却代金で返済する意図を知っていたことから、要件①、②を充たす。また、自己の遊興による借金を長男の土地売却代金で返済するようなことは、法が親権者に代理権を与えた趣旨を著しく反する特段の事情であたる。以上から、Aの行為は107条にあたる。
(4)では、Cの地位を共同相続したAとDは、甲土地の所有権移転登記手続を行う義務を負うのか。
ア、無権代理人が他の共同相続人とともに本人を相続した場合、他の共同相続人が無権代理行為を追認しているのに無権代理人が追認拒絶をするのは信義則に反するが、追認権や追認拒絶権は、性質上、相続人全員に不可分に帰属し、他の共同相続人の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても効力は生じない。
イ、追認権や追認権拒絶権が性質上、相続人全員に不可分的に帰属する事の意味については、追認権や追認拒絶権は共同相続人の準共有(264条)になる。また251条は共有物の変更行為(処分行為)は他の共有者の同意が必要になるとしている。追認や追認拒絶は変更行為にあたり、共同相続人の全員の同意を得ることが必要と考える。
ウ、本問においては、Aの共同相続人Dは、Eの登記請求を拒否しており、これはAの無権代理行為を追認拒絶をしているといえる。したがって、Dの相続分のほか、Aの相続分についても無権代理行為は効力を生じない。したがって、
Eの請求は認められない。
2、小問(2)
(1)DがFに対し、乙土地などに何らかの請求するためには、Dが乙土地について正当な権原を有する必要がある。Dは相続により、乙土地について法定相続分(896条、900条2号)にあたる3分の2の所有権(共有持分権)を持っている。したがってDは、この共有持分権に基づく返還請求権又は保存行為(252条但書)に基づいて、EからFへの所有権移転登記抹消手続請求または真正な登記名義の回復を原因とするC名義への所有権移転登記請求と、丙建物の収去と乙土地の明渡請求を行うことができる。
(2)請求の当否
ア、Fは、紹介業者のチラシを通じて乙土地を購入した。購入した際の乙土地の所有権登記はE名義になっていた。このE名義を信頼して甲土地を善意で購入した。このことから、Fは、94条2項の「善意」の第三者として保護されないか。保護されれば、Fは乙土地を有効に取得する。
イ、94条2項は、相手方との通謀して虚偽表示を信じた第三者を保護する規定である。ただ、通謀虚偽表示ではなくても、①虚偽の外観②真の権利者の帰責性③虚偽の外観を信頼したことの3要件を充たせば、94条2項を類推適用して、善意の第三者を保護できると考える。特に②の真権利者の帰責性について、虚偽の外観を明示又は黙示的に承認、放置した場合も含まれると考える。
ウ、本問においては、乙土地の帰属はCに帰属していた。それにもかかわらず、Fが乙土地を購入した時点で、Eが所有者であるという虚偽の外観が存在しており、要件①を充たす。しかし、乙土地がE名義になったのは、Cの父Aが法定代理権を濫用してEに売却したためであった。Cが、この虚偽の外観を承認、放置した事情はなく、Cには何の帰責性はなく要件②を充たさない。したがって、Fは94条2項の類推適用を全面的には受けない。ただ、Aの帰責性は認められることから、Aの乙土地の持分(3分の1)についてはFは保護されるが、Cを相続したDの乙土地の持分(3分の2)についてFは保護されない。したがって、Dは、上記(1)の諸請求のうち、乙土地の持分(3分の2)については所有権移転登記請求権を持つ。丙建物の収去は共有物の変更行為(251条)にあたり、共有者全員の同意がいるが、当然、Fの反対があるため、できない。
(平成28年司法試験・民法・設問2関連知識へ)

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