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令和元年司法試験・民法・設問2・解答に挑戦

令和元年司法試験・民法・設問2・解答に挑戦
第2 設問2
1 下線部アを基礎づけるためにHがすべき主張について
(1)乙建物はDからEに対して、賃貸されている不動産である。Hは、Dから乙建物の所有権を取得したことから、賃貸人の地位も取得する根拠に、賃借人Eから本件賃貸借契約(601条)にかかる賃料の支払をEから受けることを主張することになる。
(2)不動産の売買において、賃貸人の地位が移転する場合、不動産賃貸借に対抗要件が具備されているときは、不動産売買契約に伴って、賃貸人の地位は賃借人の同意なく賃貸人の地位が移転する(605条の2第1項、605条の3)。
(3)本問においては、賃借人Eが借地借家法31条にいう乙建物の引き渡しを受けたことにより、対抗力を備えている。また、乙建物は売買によってDからHに所有権に移ったことにより、賃貸人の地位もHに移転する。さらに、Hは、平成30年2月20日、乙建物の所有権移転登記(177条)を備えていることから、乙建物の賃貸人の地位を賃借人Eに対抗することができる。
2 下線部イを基礎づけるためにFがすべき主張について
(1)Dは、Eに対して、乙建物に賃貸借契約を締結し、Eから賃料を受け取っている。しかし、このEに対する賃料債権をFに譲渡した。この債権譲渡は平成28年9月分平成40年8月分までの将来に発生する債権である。Fは、この債権譲渡契約に基づいて、上記期間にわたりEから賃料を受け取ることができることを主張することになる。
(2)将来債権の譲渡は、契約時に債権が発生していなくても有効であり(466条の2第1項)、譲受人は債権発生時から当然に債権を取得する(466条の2第2項)。ただ、将来債権は発生が不明であることから、以下の要件を充たす
必要があると考える。要件(a)始期・終期の明確あること、要件(b)将来債権の譲渡が、譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当の範囲を超えず、公序良俗(90条)に違反していないこと、要件(c)譲渡人の他の債権者に債務がはらえなくなり、公序良俗に違反しないこと
(3)D・F間の債権譲渡は将来債権であるが、有効である。また、始期・終期が平成28年9月分平成40年8月分まで、と明確であり、要件(a)を充足する。また、譲渡人Dの営業活動等や他の債権者に債務に不利益を与える特別な事情もないことから、要件(b)、(c)を充足する。また、Dは、Eに対し、債権譲渡の通知がEに到達していることから、債務者の対抗要件を具備している。したがって、FはEから上記期間にわたり、賃料債権を受け取ることができる。
3、私見
1、Fの主張が妥当である。
2、D・F間の将来債権譲渡は、D・Eの本件賃貸借契約から生ずるが、将来債権譲渡契約の効果は、賃貸人の地位に及ぶ。したがって、新賃貸人Hは、同債権譲渡に効力が及び、甲建物につきEの賃料は、債権譲受人Fに移ることになるからである。また、債権譲受人に債権が移転しないと、将来債権譲渡の制度が効力を失うからである。
(令和元年司法試験・民法・設問3関連知識に続く)

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