見出し画像

Dreadbox NYXの日本語レビューが見当たらなかったので書いた。(2018/10/06追記)

こんにちは、Tajima Haruoです。
TranceやAmbientを中心に作曲をしています。

2ヶ月ほど前になるんですが、ギリシャの新進気鋭のメーカーであるDreadbox社のテーブルトップ・パラフォニック・シンセサイザー NYX を購入しました。

というわけで、今回はこのDreadbox NYXを紹介いたします。
管見の限りでは日本語のレビューが全く見当たらなかったので、たぶんこれが本邦初のレビュー記事になると思います。

まず外装を見ていきましょう。

箱がオシャレですね。先に買ったKORG MS-20 miniの箱はMS-20オリジナル当時のパッケージを再現していて家電製品みたいな素朴な趣のあるダンボール箱でしたが、NYXはモダンでスタイリッシュなデザインのパッケージです。中には本体とユニバーサル仕様?の電源プラグがあります。日本に対応した形状の端子も入っていたのですぐに付け替えられました。
箱はオシャレなので取っておいてあります。

ちなみに、僕が購入した際のショップはドイツのMusic Store Professionalというところです。日本円での表示にも対応しているので便利ですし、サポートもしっかりしているところだと思います。
まぁほんとはイケベ楽器が公式ディーラーとして現行プロダクトを継続的に輸入してくれたらもっとありがたかったんですが……。

Dreadboxはギリシャの新進気鋭のシンセサイザーメーカーで、プロダクトは100%ハンドメイドと謳っていますが、NYXの本体の細部を見てみるとよく分かると思います。トグルスイッチや各種端子の取り付けが微妙に揃っていなかったりします。ちなみにこれで取り付けが甘いということはないので安心してください。

インターフェースはわりと合理的に設計されているように感じました。ご覧の通り、主要なパラメーターはノブ、その他はほとんどフェーダーとトグルスイッチとノブスイッチです。同社のEREBUS v2HADESは全てノブとトグルスイッチであるのに対しNYXにフェーダーが搭載されているのは、パラメーターの数が圧倒的に多いことに起因すると思われます。
大きなCUT OFFノブがしっかりと中心の目立つ位置についているのが良いですね。ただし、周りにもいくつかノブがあり間隔に余裕がないため、リアルタイムでパフォーマンスする際は他のノブに指の動きが干渉しないよう気を付けて操作する必要はあります。
ノブのトルクやフェーダーのスライドは軽やかですが、緩いわけではなく滑らかな動きで繊細なニュアンスもしっかりと伝わってくれるので快適です。
パッチベイはケーブルの抜き差しにかなりしっかりとしたクリック感があり、挿したときにはパチッと心地よい音がします。

本体上部にはリバーブが内蔵されているのが見えますが、これはCrazy Tube Circuits Splash Mk3に基づいたものらしいです。

音はかなりクリアでハイファイです。デジタルシンセのように滑らかですが、ピッチがピッタリと合いすぎることはなく、自然なデチューン感は残ります。
コンパクトながら低音の量感も素晴らしく、中高域もしっかりと鳴ってくれる印象です。シンプルにリードやベースの音にも活躍してくれると思います。
モダンなシンセだけあって、ヴィンテージとなった機種の復刻であるKORG MS-20 miniよりも全体的に太く分厚く、安定感のある音が出ます。あちらはわりとピーキーで暴れる音なので、それぞれの持ち味を活かして分業できそうです。
ちなみにオシレーターのウォームアップタイムが必要で、電源を入れた直後はピッチがヨレヨレになります。環境にもよりますが、5分くらいかかる場合もあるようです。この点で言えばMS-20 miniは安価なエントリーモデルの復刻であるにも関わらず、電源を入れた直後からマスターチューニングは安定しています。そういう意味ではMS-20 miniも案外モダンなところがあり、NYXにもヴィンテージ的な味わいを感じるところがあります。

オシレーターの波形はVCO 1がSaw, PulseでVCO 2がSaw, Triangleですが、両方とも波形の中間でトグルすることでオシレーターOFFになります(その他に、2VCO独立のLVLフェーダーを一番下にしても音が鳴らなくなります)。
パラフォニック・シンセサイザーというだけあってポルタメントも独立しているので、両VCOにGLIDEフェーダーがあります。別々の値にして適当なフレーズを鳴らすと奇妙な感じになるので楽しい。
オシレーターのレンジは3段階です。ここはわりと狭めでしょうか。KORG MS-20 miniだと4段階でしたね。あっちはリングモジュレーターも入っていたのである程度広いほうが使い勝手が良いというのはありましたが、NYXはそこまでやらなくても良い気がします。SYNCスイッチはオシレーターシンクです。
ちなみにVIBRATOは普通に三角波のピッチLFOです。公式の写真やマニュアルだとLVLフェーダーが周期のインジケーター付きになってるんですが、僕の購入した個体は初期型なのか取付ミスなのかマイナーチェンジでこういう仕様になったのか、インジケーター無しの普通のフェーダーでした。周期が分からないのではちょっと困りますが、やろうと思えばテンポ同期LFOをDAWで出してCV INに入れられるのでまぁ良いかな……という状況です。

パラフォニックというと2VCO, 1VCF, 1VCAで"オシレーターは独立して鳴るがフィルター、アンプリファイアーは単一(ゆえに発声数ぶんモジュールを入れるポリフォニックとは異なる)"という形式が一般的だと思いますが、なんとNYXは2VCFです!お得!
そのためフィルターセクションの名前が"DUAL FILTER"になっているのですが、これはMS-20 miniのようなHPF→LPFで可変幅バンドパスになる構造ではありません。本体の左上部に"ROUTING"という2つのノブスイッチが見えると思いますが、そこに表示されているモードを切り替えることで"どちらのVCOを", "どのVCFに", "どのように通す"かを決めることができます(ちなみにVCO ROUTINGをVCAにするとVCFをバイパスして直接VCAに通る)。

VCFの一番単純なモードはLPF, HPFでそれぞれ名前の通りです。VCOをNORにすると最大-24dB/Octのカーブで鋭いキレが出ます。かなり切れ味が鋭いのでケガに気を付けてください。ゆるいカーブが欲しいときはHALFにすると2VCFのうちVCF 2だけを通るので-12dB/Octです。ゆったりしていますがHPFでの-12dB/Octは思ったよりかなりザクザクしていて気持ちの良い手触りがあります。
ちなみに、LPF, HPFなどのモードではフィルターのカーブをCUTOFFPOSTの位置で調整します。POSTはオフセット的な感じの機能ですが、それ自体もVCFであって単なるオフセット位置の調整ではないのがポイントです。

アナログのザラッとした質感、みたいなことをたまに表現することがあるかと思いますが、まさにNYXのフィルターのフィーリングはザラザラとしたアナログの特徴的な手触りだと思います。

MS-20 miniのフィルターはいわゆる"MS-20前期型フィルター"で、オリジナルのほうでは独特の過激な変化が評価されていたということらしいですが、そのわりにカーブは-12dB/Octと案外ゆったりしています。しかしひとたびPEAKを上げていけば、急激にドライブする発振音が牙を剥き、何もかもを吹っ飛ばすモンスターと化します。
対してNYXは滑らかに変化しつつもザックリと切れ味の鋭い-24dB/Octのカーブが出せるため、意外とパワフルな印象を受けました。

VCO, VCFのルーティングの組み合わせによっては、VCOごとに別々のVCFに通したり、VCFをパラレルに通すことでフィルターの絞り具合を独立にしたりといったことができるという感じでしょうか。まだ全ては試してないのでそこは確信がありませんが。

LVLオフ、オシレーターオフに触れた時点で読者の皆様は既にあることにお気付きでしょう。そうです。RESを大きく(だいたい80%くらい?)上げると自己発振し始めます。

たしかこれはDAWからS&Hを出力してCUTOFFにINPUTしました。リバーブが深めにかかってて分かりづらいですが出ている音はレゾナンスの発振音とリバーブの残響だけです。

NYXは2基のMODがDUAL FILTERセクションの下段に構えているのが重要なポイントです。
このMODはEGとLFOを兼用しており、トグルスイッチでLFOをONにするとLFOになります。
RISEはATTACK, FALLはDECAY/RELEASEです。
HOLDをONにするとレベル最大で固定のSUSTAINが加わるため、AD/ASRエンベロープのEGということになります。
LFOモードではRISE/FALLの値によって波形と周期が決まります。両方が同じ値だと三角波、どちらかが0でもう一方がそれ以外の任意の値だとノコギリ波のようになります。この状態でHOLDをONにするとGATEが入力されている間はSUSTAINが入るため、GATEの入力に応じてLFOがRetriggerされます。

この2基のMODとCUT OFFノブの間に"MOD ROUTE"なるノブスイッチがあるのが見えますね。これもVCOやVCF同様にモード切り替えによって2VCFに対してどのようにMODを適用するかが決まります。
これは先ほどお話ししたパラフォニックに関わる部分でもあります。MODもたとえばMOD 1のみを使用する、両方を2VCFにかける、それぞれMOD 1とMOD 2をVCF1, VCF2に分けてかける、などが切り替えられます。

VCAについてはざっくり話して終わります。MASTER LVLノブのほか、先述のMODとほぼ同じEG/LFOがあります。これ以外に言うことがない……。

ちなみに2MOD, AMPのLFOの周期は3基全て速度の幅が違うそうです。最速はMOD 2で最遅はAMPです。EGの時間変化の特性もそれに合わせて異なるのかはよく分かりません。
====2018/10/6追記====
EGの時間変化もMOD2が最速のようです。
====追記終わり====

REVERBはペダルエフェクターのものと同じアルゴリズムというだけあって積極的に音作りをするためのリバーブという感じがします。DAWで作業しているときに全体に薄くかけるようなリバーブではありません。そういうのはDAW側でやればいいんです。どうせNYXからパラレルに複数のトラックの音が出るわけでもありませんし、そもそもAUDIO OUTはモノラル出力ですので。
DECAYを最大に回してやるといつまでも残響が残るので、それ自体を一つの音として使うことも出来ます。
YouTubeなどに様々なユーザーが上げているNYXの演奏動画でも、このリバーブを大胆に使ったドローンサウンドやメロウで深い響きのあるパッドがよく出てきますが、ある程度深めにかけると空間的なアンビエンスだけでなく生のストリングスっぽい質感も出てくるのが個人的なお気に入りポイントです。

諸々の接続端子については写真を見るとお分かりのとおりかと思います。パッチベイ以外は凡そ見たまんまの説明不要な感じですね。
AUDIO INはVCFを通らないのでVCAよりもあとのREVERBにダイレクトに入ります。音量はMASTER LVLのみに追従します。これを使うことでペダルエフェクター的な運用をしたり、ペダルエフェクター的な運用をしながら普通にシンセサイザーとしても鳴らしたりできます。外部入力に関してMS-20 miniほど複雑なことはできません。

MIDI INはノートメッセージの他にMIDI CC1も入力できます。入力されたモジュレーション情報はCVに変換されてMOD OUTから出ていきます。先述のDAWからS&Hを引っ張ってきて云々というのはこれを利用しました。

NYXはシンセサイザーであると同時に、簡素なMIDI-to-CVコンバーターとしても機能するので、それなりに便利です。MIDI情報は内部でCVに変換されてからVCOやVCFを通っていきますが、同時にCV OUTGATE OUTからも出ていくので、他のセミモジュラーシンセやモジュラーシンセをコントロールするのにも使えます。

パッチベイは必要最低限の入出力を備えつつ、拡張性は高いように感じます。VCO2 OUT は、読んで字の如くVCO2の波形がダイレクトに出力されます。小さいノブを回すと出力の電圧を調整することが出来ます。これでCUTOFFを動かしたりするとFM的なことになるんでしょうか。適当に動かしてみてもバリッと音が変わったりして良い感じです。
M OUTM2VCO2 OUTのように小さなノブがあり出力の調整が可能 (Attenuated) です。
MOD OUTは先ほど述べたとおりMIDI CC1からモジュレーション情報がCVに変換されて出ていきます。

表には出てない部分の話になりますが、筐体を開けて基盤を見るとDIPスイッチが4つ付いています。これは1-3でMIDIチャンネルの切り替えを、4で2VCOによるユニゾンのON/OFFの切り替え(デフォルトはOFF)を設定できるようです。僕はまだ試してませんが、NYXを複数台使用するポリフォニーチェインの方法などがマニュアルに載っているので、そういう使い方に興味が出たらいずれ試してみたいと思います。

ちなみに、NYXを買ったあとで色々やりたくなってKORG SQ-1を買ったのですが、これでCVを2系統出力できるのでパラフォニーで鳴らしたりして遊んでます。小さくておもちゃっぽいですがかなりズッシリと重く堅牢で、機能も充実しています。
NYXのようにMIDI-to-CVコンバーターとしても機能する上に、通常のMIDI OUTもある(本体側はステレオミニジャックで、ステレオミニ→5ピンDIN端子コネクター付属)ので、シンセが増えてきてオーディオインターフェースのMIDI出力だけでは足りなくなっても大丈夫です。

(追記)SQ-1を買った直後だか買う直前だか忘れましたが、友人から練習用ギターアンプ(ARIA AG-10X 生産完了品)をもらいました。DTMには関係がありませんが、シーケンサーとアンプがあれば簡素なパフォーマンスができるので、近所迷惑にならない程度に適当に鳴らしながら踊ったりもできます。楽しい。アンプから空間を飛んでくる音は普段ヘッドホンでモニターしてるのとは全然違って聞こえるのも良いです。
しかしギターアンプの設計はアナログシンセサイザーのことを考慮していませんので、ゆくゆくはキーボードアンプを導入するつもりです。
以上、アンプを譲ってくれた友人に対する謝意を込めた追記です。

さて、ここまで半分くらいカタログスペックの説明をしつつDreadbox NYXについて細かく見てきましたが、2ヶ月間触ってきた感想としては、モダンでありながらどこか懐かしさを抱くシンセサイザーであるというところです。
やっぱりアナログは良いですね。
よくアナログの温かみとか言ったりしますが、やはりアナログならではの温かみというのは確かにあるなと感じます。Dreadbox社は新進気鋭のメーカーで、モジュラーシンセブームの行く末とともに、こういったメーカーが今後どうなっていくのか気になるところではありますが、少なくとも彼らの現行のプロダクトに関しては安心感を抱いています。

ところで、ここで一つ気になるのは同価格帯の他社のシンセサイザーとの比較でしょうか。
たとえば、MOOG Mother-32とDreadbox NYXのどちらが良いのか知りたい!という人はある程度いるかと思います。正直なところ、持ってないMother-32のことをNYXと詳細に比較するのは無理なのでザックリと所感を述べると、MOOG Mother-32は老舗メーカーらしい堅牢な筐体と安定感のある出音、そして豊富なパッチベイやステップシーケンサー、MIDI-to-CVコンバーターによる高い拡張性を持っていながらも7万円ほどで手に入るので、コストパフォーマンスで言えば最強の1台でしょう。
それに対してNYXはステップシーケンサーは持たず、パッチベイも比較的シンプルな機能に留まっていますが、1VCOのMother-32に対し2VCOで、リバーブも入っていてMother-32とは違った音が出せると思います。
ちなみに僕はNYXを購入するときにMother-32とはあまり比較せず、純粋にNYXに惚れ込んで購入しました。

せっかくセミモジュラーを買うんだったらどっちか1台ではなくどっちも買っていろんなパッチングで遊べるようにしたいなとも思います。実際すでにMS-20 miniとNYXでパッチングして遊んだりもしていますが、音作りの幅も広がるしそれぞれの持ち味も分かるし、何よりもこうやってパッチングして音作りをするのはなんだか楽しいですね。

さて、前回MS-20 miniのレビュー記事の最後でDreadbox NYXを買ったという話をしたかと思いますが、今回はDreadbox Erebus v3を予約しました。今月発売予定だったのが一ヶ月延期したので些か不安ではありますが、11月頃に届くのだろうなぁと思うと今から楽しみです。
v2までの可愛らしい小ぢんまりとした感じから一変してスタイリッシュになりましたが、パッチベイの様子からするとMother-32あたりに対抗意識でも芽生えたのでしょうか。3VCO構成というあたりにminimoogっぽさも感じます。本家と違ってさすがにLFO兼用オシレーターはVCO3だけですが。
ちなみにErebusはNYXと違ってエコーが内蔵されているのが特徴で、ユニークなサウンドをもたらすDreadboxシンセサイザーの代表作として有名でしたが、v3で大きな進化を遂げてどうなるのか期待が高まりますね!

というわけで、Dreadbox NYXのレビューはこれにて終わりです。
今回は手持ちの機材で比較対象になるのがKORG MS-20 miniしかなかったのでだいぶ極端な比較になったかもしれませんが、そこについては次回(おそらくErebus v3のレビューも書くので、その機会)に反省を活かしたいと思います。
さて、こういうレビュー記事を書くにあたっては曖昧に理解していたところを再確認する作業が必要になるので、NYXをよりよく知るための良い機会になりました。よりよく知った結果、さらに愛が深まりもしました。
みなさんも、ハードウェアであれソフトウェアであれ、何か新しく手に入れたものについてはレビュー記事などでアウトプットしてみると良いんじゃないでしょうか。好きなものについて語るのは楽しいですし、見方が広がるきっかけにもなると思います。

それではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?