すずらん(第1話)

「大人になったら、純平とけっこんするんだ!」「私達ずっと一緒だよ」美奈は俺のことが大好きだった。俺も好きだったが照れ臭くてこんなセリフ一度も言えなかった。
 家が隣同士だった美奈そしてその姉の一葉とはいつも一緒だった。クラスは違ったとしても幼稚園、小学校の帰りも一緒。一葉ねえちゃん、いちねえも俺のことを弟の様に可愛がってくれた。しかしその生活はある日突然終わりを迎えた。それは俺たちが小4の3学期のある寒い日だった。その日の前の晩から俺は熱を出して学校を休んでいた。昼まで寝ていたが熱は上がるばかりなので、母が俺を病院に連れて行くことにした。「混んでるね、ごめんね」渋滞に巻き込まれた。病院までの道中助手席を倒して朦朧としていたが「ウゥー」「ウゥーカンカンカン」「救急車が通ります道を開けてください」静かな車内に救急車両のサイレンだけが響いていた。「近くで事故ったんかな」「ここら辺やわ、一車線規制されてるわ」元々二車線しかないので警察が交通整理をしていた。「うわあ、車がえらいことやなあ」車が電柱にぶつかって大破していたらしい。ほとんど意識がなかった俺はこのことを後で知ることになる。想像もしたことのない現実と共に。
俺はインフルエンザ陽性だった。お薬を貰って帰宅。「帰ったら美奈ちゃんが連絡帳持ってきてくれるかもね。けど会っちゃだめだからね。」「うん。」俺達の小学校では近くの家の子が休んだ時連絡帳や配布物を届けるという決まりがあった。美奈はポストに入れずいつもいちねえと一緒に来てわざわざ母に手渡しして俺のことを心配してくれた。手紙までつけて。しんどくて寝てても美奈が押すインターホンの時だけは目を覚ました。

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