人生攻略本10冊を携えて、ドラゴンクエストのように冒険して生きる

人生はRPG(ロールプレイングゲーム)だとよく言われる。ドラゴンクエストが大好きな私は子どもの頃からひとつのナンバリングをクリアするたびに、自分も世界を救う勇者になれるかのような夢を見ていた。

今は大人になってだいぶ経ち、勇者どころか何者にもなれず、誰かのRPGの世界に生きる村人にすぎない自分にそれなりに満足して日々を過ごしている。ここはわりと安全で、大きく傷つくことはない。心がけ次第では、いくらでも幸せに暮らせると思う。

だけど時々、ふと立ち止まって考える。私は自分の人生の冒険を一度もクリアしていない。それでもいいとずっと思っていた。
もし今からやり直しても、ステータスを引き継げる“強くてニューゲーム”ではなく、Lv1からのスタートになる。道のりは険しい。

それでも、RPGの世界でなら何度もやり直してきたから知っている。ある程度の攻略法を理解している冒険の序盤で、自分のレベルがどんどん上がっていく瞬間が人生で一番楽しい。難しいのは勇気を出して始めること、そして最後まで続けること。

現実も同じなんだと思う。始めれば、続ければ、成長した自分がそこにしかない楽しさも険しさもきっと越えてくれる。たくさん失敗して何度も挫折して人生を諦めかけている、この村人を操作できるのは私だけ。

今の私の手には攻略を助けてくれる10冊の本がある。以前の冒険で疲れて休んでいた日々が必要だったと思えるのは、それらの本との出会いがあったから。今度こそクリアできる、そう信じて旅に出たい。

いつだって心の奥には、ドラゴンクエストの序曲が流れている。ここは他の勇者が立ち寄る途中の村じゃない。私が何かのきっかけで冒険に出発する、はじまりの村。

① はじまりの村

冒険のはじまりには、必ずきっかけがある。それは何か運命的なお告げのような出来事の場合もあれば、頑なに閉ざした心をメンターのような存在が少しずつ変えてくれることもある。この本のガネーシャみたいに。

『夢をかなえるゾウ』水野敬也/著

今までの私は何者にもなれなかった自分を嘆くばかりで、ガネーシャの助言を気まぐれに実行してみても、何ひとつ継続できていなかった。近くに見えている次の目的地に最初の一歩を踏み出すためにも、まずは靴を磨き、布の服から旅人の服に着替えよう。

人は誰でも生きていく中で、自分の心を突き動かしてくれるガネーシャに出会うと思う。私にとってのガネーシャはフィギュアスケーターの宇野昌磨選手だった。
ただ今回は、好きだからこそ簡単にいくらでも書けてしまう宇野選手の話は禁止、という縛りルールを自分に課したい。それもRPGの一種のやり込み要素だったりする。

この世界がどんな場所でも、自分が閉じこもっていればそれでよかった私が、今は少しでも良くなってほしいと思う。誰もが生きやすい優しい世界になってほしい。私は無力で、何もできない。でも変わりたい。

本当はこの村の外に出たくない。私はRPGの魔物よりも、現実の人間のほうがずっと怖くて、誰とも深く関わろうとしてこなかった。SNSでも自分から話しかけたことがないし、携帯電話のアドレスを全部削除して自分の番号を変えてしまったことがある酷い人間なので、友達が一人もいない。
それを考えると、ほとんどの人は私より良い人間だと思える。だとしたらここは、現実では優しい村人たちがインターネットの中ではモンスターに変身させられる魔法がかけられた世界なのかも。いや逆に、私の目にそう見える魔法がかけられているのかも。旅の中でその謎が解けるだろうか。

ひとまず最初の目的地は、決意が必要なほど大きな一歩じゃなくていい、気軽に踏み出せるくらい近くにあるので大丈夫。まだそれほど準備が整ってなくても次に進もう。

② 近くの街

一匹の魔物にも出会わずに行けるような近くの街や城では、たいてい何かが募集されていたり、依頼されたりする。そういえばガネーシャも言っていた、応募しろと。

私が今いるこの“noteの街”(募集要項にそう書いてあった。なんてワクワクする街!)では、どうやら創作大賞2023を募集している。私はずっと書くことが好きだった。でも勇気がなかった。行動する勇気、評価を受け入れる勇気、そして嫌われる勇気が。

『嫌われる勇気』岸見一郎/古賀史健/著

この本を読むと、今の日本の一億総批評家と言われるネット社会で、それでも自由に生きる勇気とは何か 、自分に何が足りないのかがよくわかる。はっきりと夢だと言えるものがなくても、他者貢献できる道を探す旅に出る勇気がずっと欲しかった。

何かを発信するということは誰かを批判したり承認欲求のためではなく、誰かを応援したり社会貢献のためでありたいと思っている。この先、私が何者にもなれなかったとしても、せめて優しい人間になりたい。

自由に生きているように見える有名人は、嫌われる勇気がある人たちなのかもしれない。けれど彼らに対し、SNSなどで厳しい言葉を書き込む人は、認知的不協和に陥らないように常に自分の中の厳しい見方を選び続けて言動を合わせてしまい、嫌う勇気だけを持った優しくない人間になってしまう。

心の中では嫌うことがあったとしても、発信する際には優しい言葉に変える必要があるのは、それを目にする誰かのためだけでなく、フラットに見れば優しい人間であったはずの本来の自分を守るためでもある。

今の私は優しくもないし勇気もない。文章を書こうとする時はいつも恐る恐る、誰かを傷つけるのが怖いと言いながら、本当は自分が嫌われて傷つくのが怖かった。
怖くて怖くて逃げ出した道なのに、書くことがやめられない。書くことでしか自分を表現できない。書くことで創作がしたい。

noteを書き始めた頃は、ユーザーがみんなクリエイターと呼ばれることに少し気恥ずかしさがあったけれど、今はこのnoteの街に、いつか一億総創作者の日本に生まれ変わる可能性を感じる。その一人として、勇気を出して創作大賞2023に応募してみよう。

③ 草原

何か目標を見つけたり、倒すべきラスボスの存在を知ったとしても、すべてはフィールドを歩いて一匹のスライムと戦うことから始まる。ドラクエのレベルアップの音が頻繁に聞ける、この成長の感覚を存分に味わっておきたい。いつか音が鳴らなくなった時に、思い出して自分を助けられるように。

RPGの偉大さは、成長すれば必ずラスボスを倒せる自分になれると無条件に信じて、地道なレベリングができる環境設定にある。なぜ現実ではそれができないのだろう。

『ゼロ秒思考』赤羽雄二/著

ドラクエの世界で一匹のスライムと戦うように、現実の世界では一枚のメモを書くことが自分のレベルアップに繋がるのだと、この本を読めば今すぐ実行したくなる。

なんだったら使用するA4用紙の端に、青いスライムや他の魔物の絵を描いてみてもいい。無心にスライムを倒すように、ゼロ秒で思考できるものを書き出しながら、経験値を得るために必要な数をこなしていく。
それを続けることでいつか、学校のテストも仕事のタスクも、どんなクエストでも達成できる力を手に入れられる。そう根拠なく信じてレベルを上げていきたい。

④ 城下町

このあたりで早くもビギナーズラックの期間は過ぎ、楽しさが感じづらくなったり、草原の魔物が強くなってきて簡単には勝てなくなると思う。たくさんの人と出会い、持ち物が増え、トラブルに遭遇したりもする、ここは冒険の第1ターニングポイント。

やみくもに先を急がず、少しの間ひとつの拠点に腰を据えて、情報をしっかりと入手し、パーティの仲間を集めて役割を確認したり、武器屋などで装備を整える必要がある。勇者一人では決して世界を救えない。

『7つの習慣』
スティーブン・R・コヴィー/著

現実の私は一時のモチベーションに頼ってしまい、それが下がると同時に自分には向いていない、ここの人たちとは合わないと、何か理由を見つけてはやめてしまっていた。理解しようともされようともせずに。
どんな道を歩んでいても、習慣によって人格を磨くことでしか真の成功はないと、今ならこの本の内容が理解できる。

もちろん理解したからといって7つともすぐに身につく習慣ではないので、何度でもここへ立ち戻って、刀を研ぐように自分の肉体、精神、知性、社会・情緒を磨きたい。
まずは、週に3時間の運動と瞑想をかねた散歩、週に一冊の読書を続けること。私の弱点である社会性については一旦保留で…。

私はドラクエウォークというアプリゲームをしていて、自分の暮らす街を実際に歩くことが、そのままゲームのレベリングになるというシステムが素晴らしいと感じる。パーティの経験値やゴールドを稼ぐためだけでなく、自分の健康や感性を育むためにも、今日もウォークモードで上を向いて歩こう。

⑤ ダーマ神殿

私がドラクエでよくしてしまう失敗は、いろんな職業をLv50くらいに上げてしまうこと。現実でも短い期間でころころ転職してしまうけれど、強くなりたいのなら絶対にひとつの職業をLv100に上げたほうがいい。
それか、得意なふたつの職業をLv50にして、掛け合わせたスキルで上級職に転職し、さらに膨大な経験値を積んでレベルを上げられるなら、その人は必ず何者かになれる。

大切なのは、戦士なのに杖を振ったり、魔法使いなのに剣を掲げて使おうとしないこと。もちろんRPGの世界ではそんな無駄なことはしないけれど、現実の職業ではそういうチグハグな装備を必死で磨こうとしている人が多いのはなぜだろう。その間違った武器ではなんの影響ももたらせない。

『影響力の武器』
ロバート・B・チャルディーニ/著

こんなに分厚い本を楽しんで読めるようになるきっかけを与えてくれたのは、YouTuberに転職した中田敦彦さんのおかげで、その話術の影響力に私は抗えない。芸人、講師、アーティスト、セールスマン、どれだけのスキルを掛け合わせた特級職なんだろう。

この数年に私が読んだ本の9割はYouTube大学での中田教授のプレゼンに心を動かされたから。なのであっちゃんが勇気を出して転職して、トークという武器を磨き続けてくれたプラスの影響力は計り知れない。

人の心を動かすことがプラスの影響だけならいいけれど、誰かにマイナスの影響を与えてしまうことが私は怖かった。影響力の武器をまだ少しも持っていないのに、持てる前提で心配をするのは滑稽だとわかっている。でもどうしても想像してしまう。

テレビで放送されているドラマの評判がよくない時、脚本家がツイッターで批判されているのを見るのが辛い。私が途中で逃げ出した山を、勇気を持って登った人だとわかるからこそ守る盾が欲しかった。そのタグも言葉もいいねも恐ろしい呪いの武器だから。それを外せなくなる人への呪いが怖い。

私は人を傷つける剣はいらない。愛ある言葉だけしか書けないペンが欲しい。いつか私が人を呪うような言葉を書くようになったら、その瞬間にペンが折れて文字が消える魔法をかけておいてほしい。そしたら私は何も恐れずに、影響力を持ちたいと言える。

だけどもう誰ひとり傷つけることなく文章が書けるとは思わない。そうありたいけれど、私はこれからも書きたいものを書き続けてしまうし、たとえ嫌われるような文章を書くことになってもこの道を進みたい。

勇者のみが装備できる天空の武器のように、勇気ある者だけが本当の影響力を持つことを恐れない。私はもう二度と自分のことを何者でもないなんて言わない。私は脚本家に転職したい。いや、必ず転職する。

⑥ 洞窟

転職したら再びレベルを上げる必要がある。ここまで来たらもう草原のスライムや魔物を倒すだけでは間に合わない。そんな時はドラクエのレベリングで必須の、メタルスライムが稀に現れる洞窟を探そう。

現実のメタルスライム狩りは自分の人生では得られない知識や体験がぎゅっと詰め込まれた良書を読むこと。ネットという草原に次から次へと現れる魔物を狩ることも経験にはなるけれど、すぐに逃げてしまうメタルスライムのように本は理解するのが難しいからこそ読破した時には大量の経験値を稼げる。

ドラクエの洞窟は迷宮のようで強敵も多く、攻略することが簡単ではない。命が危ない時には無理をせずにリレミトの呪文で脱出し、宿屋で回復したり、レベルを上げてからまた何度だって挑めばいい。

現実でも暗闇でひとり迷い苦しんでいる人がいたら、倒れる前にそこから逃げてほしい。クリアせずに出ることなんてできないと思い込んでいた暗く深いダンジョンから抜け出して気づいた、空の青さほど心に沁みるものはない。それを知っている人はきっと、いつか本当の強さを手に入れることができる。

『FUCT FULLNESS』
ハンス・ロスリング他/著

事実を基に目を澄ませば、世界は光に溢れていると知ることができた良書。テレビで暗いニュースばかりを見たり、ネットの陰謀論に私は近づきたくない。自分が失敗をした時ではなく、世界を疑い始めた時に、人は自分の冒険を続ける勇気を失うのだと思う。

応援しているスポーツの情報を求めてネットやツイッターを検索すると、信じられないような言葉を目にすることが度々ある。以前の私はいちいちダメージを受けて、人間不信の貯金箱がまたひとつ貯まるだけだった。

でも、今は違う。社会に距離を置いていたために明らかに対人経験が足りなかった私は、それを補って余りあるほどの人間観察をしている。自分では絶対に思いつけないような会話を全世界に公開してくれているおかげで、心のアイデア帳にストックが貯まる。

いつか私が書く脚本に登場してもらうことになったら、私は物語の中でその人物を救えるだろうか。何らかの映像化で、その人のもとに届くくらいの、誰かの体中に電気が走って人生観が変わるくらいの脚本が、一本でいいから書きたい。その一本のために残りの人生のエネルギーをすべて使いたい。

余命宣告を受けて最期に『FUCT FULLNESS』を人類への遺言のように書いた著者は、愛の人だった。世界のどんな事柄に対しても、事実を基に見ることは大前提だけど、何よりも愛をもって見ることでしか世界は救えない。勇者とはきっと愛と勇気の人のことをいう。
私にはまだ果てしなく遠い道のり。

⑦ カジノ

ドラクエのカジノは一時の心を癒すお楽しみ要素でもある一方で、終盤の冒険に不可欠な装備が景品になっていることが多い。ここまで進むと武器屋や防具屋で装備を購入するのにもかなりのゴールドが必要になる。
私の場合、新しい街に到着するたびに、もう使わない古い装備はどんどん売って今のパーティにふさわしい最強の装備を買う。

それなのに現実では、いつまでも昔の自分が使っていたものを大切にしているのはなぜだろう。断捨離こそがゴールドダンジョンなのかもしれない。レベルに合わせて使わないものは手放し、より今の自分に役立つものを揃えたい。身軽になり、資金を調達する、それがこの先の冒険へ進む鍵になる。

『夢と金』西野亮廣/著

才能があっても努力ができても勇気がなければ夢は叶わないと思っていたけれど、さらにお金が尽きても夢は叶わないのだと教えてくれた。この本を10冊の中に加えることに少し躊躇した自分に、いかにお金の話題を避けて通ろうとしてきたかを実感する。

私はドラクエタクトというアプリゲームがこの世で一番好きなゲームなんだけど、これはマス目上でタクティクスを楽しむというよりも、どのキャラに投資して育成するかというマネジメントを学ぶゲームだという気がしている。現実では週に十万単位のお金を動かせない私みたいな微課金層には、ゴールドの運用に悩み、失敗しながらも成長できる貴重な実践の場ではあるかもしれない…。

そして私は社会性が超弱点だけれど、ドラクエタクトが好きすぎてギルドマスターをしている。ほぼ交流はないものの私にとっては大きな一歩で、いつか脚本家としてもチームの一員になれるように、これから社会性を身につけていきたい。夢のために。

⑧ 塔

目の前に高い塔が現れたら、自信が持てるほどにレベルを上げ、不安のないように装備を揃えて、勇気を出して登りたい。高いところに上がって初めて見える景色がある。そこでしか得られない感情、気づきこそが、人生の冒険の第2ターニングポイント。

塔といえば、私はディズニー映画の『塔の上のラプンツェル』が大好きで、4歳の姪っ子にも一度見せたら、週末に遊びに来るたびに一緒に何度も見ることになって、毎回「誰にでも夢はある」を姪っ子と歌っている。
そのたびに願う。この愛しい姪っ子が生きる世界が平和で美しくあってほしい。そして、こんなふうに姪っ子に楽しんでもらえる物語を私もいつか書きたいと。

ディズニーのエンターテインメントとしての魅力は本当にすごい。西野亮廣さんが以前、「ディズニーを倒す」のが目標だと宣言した時、バカげた夢だと笑う人もいた。
映画になった絵本『えんとつ町のプペル』を描いた西野さんも、最初はスライム一匹のような簡単な絵を描くことから始めている。ここまで想像もできないレベル上げをし続けてきた人を笑えるのは、いったいどんな人生の冒険をクリアした人なんだろう。

『バカの壁』養老孟司/著

人間は常に変化し、真に理解できていることなんて何もない、そのことを忘れたくなくて時々読み返す。正義をかざして誰かの言動を批判したり、大きすぎる夢を聞いて笑う人がいるとしたら、それは自分の理解できる壁の向こうだからなのかもしれない。

笑われるような立ち位置にもいないけれど、勇気を持って宣言しよう。私もディズニーに負けないような脚本が書きたい。この場合、ディズニーはラスボスだけど敵じゃない。これほどまでに成長したい、社会貢献したいと私に思わせてくれる、アドラーの教えで言うところの、導きの星なんだ。

⑨ 天空城

山は登るよりも下りるほうが難しいと言われている。私は現実の世界でここまでたどり着いたことはないけれど、スポーツ選手の応援をしていると共感することがある。

彼らがトップアスリートをめざした時、必要だったのはきっと嫌われる勇気だった。歯を食い縛って戦ってきたのは競技のライバルだけではなかっただろうと想像できる。たからこそ引退の時には、ただただその心が幸せになる勇気で満たされていてほしい。

『幸せになる勇気』岸見一郎/古賀史健/著

前作に続き、アドラーの教えに勇気をもらう素晴らしい本。人は愛することでしか幸せになれない。愛されるためではなく、愛するために生きるようになるのが精神の自立であり勇気であるなら、きっと誰でもなれる。

他者貢献とはあくまでも自分が貢献感を得ることで満たされることだと知って、実際に貢献できているのかを気にしすぎることなく、主体的にそうありたいと考えて行動しようと心がふわりと軽くなった。

勇者がラスボスを倒すことも、世界を救って英雄となり感謝されたいからではなく、自分に倒したい理由があるからで、それが社会貢献に繋がるという結末にすぎない。すべては愛する人を守るため、愛する人と共に生きる未来を切り開くためだった。

たとえ世界を救っても愛する人を失うなら、その後の世界になんの意味があるだろう。
小説や漫画でその後の勇者を描くストーリーの多くが、あまり明るいものではない理由がなぜかわかる気がした。

勇者の代わりは他にもいて、世界はきっとなんとかなる。でも、あなたの代わりはいない人がいて必要としているなら、勇者になんてなれなくていい。村人がいい。
すべての人が目の前にいる愛する人を大切にして、幸せになる世界であってほしい。そうであれば現実の世界には魔物なんていない、魔王なんて生まれないはずだから。

⑩ 魔王城

ドラクエで魔王を倒すと、各地のエンディング映像が流れてハッピーエンドとなる。勇者として戦いきった私はこの、現実では得られない達成感と、終わってしまった喪失感の両方でしばらく抜け殻みたいになるけれど、たとえゲームでもやはり冒険する前の自分とはどこか違う自分になっているのを感じる。

『これからの正義の話をしよう』
マイケル・サンデル/著

正直、ゲーム以外でここまでたどり着いたことがないので、最終決戦をクリアするために必要な攻略本が何かわからない。何が正解か何が正義かわからないからこそ、社会の中で考え続けたいと思えた本だった。

はたして勇者が正義で、魔王が悪なんだろうか。二元論ではなく、表裏一体の世界で立場が変われば、見方も変わる。魔王を倒せるほどの力を身につけた者が、もし闇落ちすることほどの絶望はこの世にない。

社会生活が苦手で必要最低限以外は家にこもってRPGの世界で過ごしてきた私は、ここが光のあたらない裏の道だと思い込んでいた。けれど、ドラクエから学んだたくさんのことが現実の世界でこれからの私を導いてくれると信じて、冒険を続けていこう。

この世界で誰かが書く文章や、生み出す作品は、結局のところ、ただひとりへのラブレターや贈り物だと思っている。
この考え方もきっと10冊の攻略本のように、私が通ってきた道のどこかで触れたものだと思うので、なるべく光のあたる表の道を自分で選んで、自分を育てることが、人生で最も大切なことかもしれない。

世界はいつだって開かれているし、人はいつだって変われる。勇気さえあれば、どんな人も自分のめざす山を登って世界を救う勇者になれる。今の世の中で、希望の光が閉ざされているようなこの島は、あなたという勇者が立ち上がるのをきっと待っている。

ただただ優しい世界であってほしい。