世界をひとつにする大秘宝『ONE PIECE』と氷上のアラバスタ

私は子どもの頃からゲームと漫画が大好きだった。ゲームと漫画から学んだことはたくさんあるけれど、その中でも一番大切なことを突き詰めて言えば、世界に「敵はいない」ということだと思っている。

私の好きなゲーム『ドラゴンクエスト』や、私の好きな漫画『ドラゴンボール』そして『ONE PIECE』が特にそうなのかもしれないけど、どんなキャラクターにも愛すべきところがあり、悪役として登場しても必ず主人公を成長させてくれたり、後に仲間や理解者になったりする。ゲームや漫画のおかげで、敵はいつだって自分の心が作り出しているものなんだと知ることができた。

だからゲームや漫画はよくない影響があると敵視する人がいたら、まず『ONE PIECE』を読んでみてくださいと伝えたいし、世界中で今この瞬間も自分の心が作り出した敵と戦っている人たちには「敵はいない」と書かれたビラを空から配るみたいに、そっとその手に『ONE PIECE』を届けたい。

今から読み始めてもまだ間に合う。ジャンプ連載25周年、単行本は100巻を越える大長編漫画だからこそ、その中のどれかのエピソードが必ずどの人の心にも響く。
『ONE PIECE』という漫画こそが最果ての島ジパングにある「ひとつなぎの大秘宝」なんじゃないかと私は思っているくらいなので、『ONE PIECE』完結の時をひとりでも多くの人と共に迎えられたなら、日本中に、世界中に平和の鐘が鳴ると夢に見ている。

【東の海(イーストブルー)】
①ゴア王国フーシャ村
②海軍基地の町シェルズタウン
③オレンジの町
④シロップ村
⑤海上レストラン「バラティエ」
○ココヤシ村アーロンパーク
○始まりと終わりの町ローグタウン

ひとつの島に10巻前後をかける最近のワンピースも大好きだし、イーストブルーを12巻で航海した初期のスピード感も好きだった。もし100巻以上という巻数にためらう人は最初の12巻だけと決めて読んでほしい。
それでも充分にワンピースの世界を味わえるし、その先の冒険が気にならない場合はそれ以上に自分の人生を楽しんでいる人だと思うので、必要なのは今じゃないのかも。いつか立ち止まった時にふと思い出してもらえたらきっと宝物が見つかるはず。

私がワンピースを読み始めたのは中学の時、クラスの誰かがジャンプを持っていたら回し読みさせてもらって(ごめんなさい…)友達とワンピース愛を語っていた。単行本の発売日には急いで本屋さんへ走り、自分のおこづかいで買って1ページ1ページを噛みしめるように読んだ日々を思い出す。

大人になった今は現実にワンピースを語り合える友達はいないけれど、そのぶんYouTubeなどのSNSでは深い考察を発信する人たちがたくさんいて、心の中でワンピースを愛する仲間が世界中にいるのを感じる。

SNSは心の敵を見つけるためではなく、心の仲間を見つけるためにある。もし酷い言葉を投げかけられても、自分の大好きな人が根拠なく叩かれていたり誰かを傷つけるために使われていても、敵に見えるその人はまだ心を救ってくれる恩人に出会っていないだけなんだと、私は希望を持ちたい。人は誰でも何かのきっかけで必ず変われる。

海賊王をめざすルフィの冒険が、シャンクスに救われ、預かった麦わら帽子を返しにいく恩返しの旅でもあるように、私たちの人生は心の恩人に巡りあう旅なのだと思う。

【偉大なる航路(グランドライン)】
○リヴァース・マウンテン双子岬
○サボテン島ウイスキーピーク
○太古の島リトルガーデン
⑥冬島ドラム王国
⑦砂の王国アラバスタ

私の心の恩人、フィギュアスケーターの宇野昌磨選手が『ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~』でルフィ役を演じることが決まり、その喜びと感謝を胸に、今この文章を書いています。

ワンピースのアイスショーと聞いてまず想像したのは、ドラム王国のエピソードだった。氷の世界観が合うし、私がワンピースで最も涙したシーン、ヒルルクの桜をプロジェクションマッピングで氷上に投影したらどれほど美しいだろう。それも見てみたいけど、スケートの表現で考えると確かに、アラバスタの砂漠の疾走感こそ氷上を活かせる。

宇野選手は競技のプログラムでは、主人公としてストーリーを演じる役者タイプのスケーターではなく、音楽に合わせて自分の感情をぶつけ続ける芸術家タイプの表現者だと感じている。だからこそ新しい挑戦でもあるし、声優さんに合わせて感情を爆発させる自分の土俵でもあってほしい。

私は脚本家をめざして勉強していたことがあって、その時に、原作を脚色するということはそのまま書き写すのではなく、血を抜いて持ってくることだと教わった。
きっと役を演じるということも見た目や表情を似せること以上に、自分の中にそのキャラクターの血を流すことなのだと思う。

少し話が脱線してしまうけれど、井上ひさしさんの戯曲『組曲虐殺』の中に「手先で書くのではなく全身でぶつかって書く」というような台詞があって、私が心に決めた文章を書こうとする前にいつも思い出す。

プログラムを演じる時のスケーターも足先で滑っているのではなく全身で滑る。彼らは役者じゃない、だけど20年もの間、磨き続けたスケートには魂が宿っている。
『ワンピース・オン・アイス』で初めて生のスケートを観る方がいたら、どうか氷上だからこそのワンピースの世界を、スケーターの全身の滑りから感じてほしい。

先ほどの『組曲虐殺』の中で一度聴いてから忘れられずに、気がつくとつい口ずさんでしまう「信じて走れ」という歌がある。
劇中の小林多喜二さんの魂がこもった、この歌を聴いた時の震えるような感動を求めて、人は演劇を観に行くのかもしれない。

“あとにつづくものを 信じて走れ”

海賊や海軍に虐げられていた人々を解放し、自由に生きるルフィこそが、小林多喜二さんが隠れ住む部屋で夢見た人物だったと思う。あとにつづくものの中に、尾田栄一郎先生がいた。どんな思想も敵じゃない。今の日本は尾田先生が陽のあたる場所で『ONE PIECE』を生み出せる国でよかった。

そして私にとって、宇野選手はルフィみたいな人だど思っている。お肉ばかり食べているし、天然と言われたこともあるし、悪ガキなところを見せて真面目なスケートファンをよくヤキモキさせたりするけれど、何かを守るためには覇気を出せる人だと思う。
ワンピースに覇気が登場するのはもう少し先のエピソードだけど、アラバスタ編が好評だったら他のエピソードも氷上で実現するといいな。定期公演ができたら価格も今より抑えられるかもしれないし、スケーターをめざす少年少女が増えてくれたら嬉しいな。

○無法地帯の島ジャヤ
○空島スカイピア
○ロングリングロングランド
⑧造船都市ウォーターセブン
○司法の島エニエス・ロビー
⑨巨大船スリラーバーク
○シャボンディ諸島
○女ヶ島アマゾン・リリー
○大監獄インペルダウン
○海軍本部マリンフォード

次から次へとこんなにも面白いエピソードを思いつく尾田先生は本当に天才だと思うし、日本の才能は漫画家に集結しているんじゃないか、世はまさに大漫画家時代…!だと感じるくらいの今、日本に生まれてワンピースを楽しまないのはもったいない。

この辺から登場人物が多くなるので、漫画のコマの中に没頭しにくいと感じる人もいるかもしれない。私はまだ大丈夫だけど、その気持ちがわかるのは大人になってしまったからだと思う。子どもの頃はどんなコマの枠も見えなかった。中に入り込んでその世界の住人のように楽しむことができた。

目にするもの耳にするものすべてに傷つくような感受性だった中学時代、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』などのゲームや『ONE PIECE』『HUNTER×HUNTER』『NARUTO』などの漫画に逃避して冒険した時間がどれだけ自分を救い、現実で生きる力を与えてくれたかわからない。

今も読み続けているし、大人になって出会った『僕のヒーローアカデミア』『鬼滅の刃』『呪術廻戦』などの漫画も大好きだけど、子どもの頃の感性には戻れないから、枠越しに熱中して楽しんでいるところがある。
でも大人になるのは悲しいことばかりじゃない。この限られた枠の中に、無限の創造世界を作り出す人間技の凄さを感じることができる。何百年後の機械も『ONE PIECE』のストーリーはきっと生み出せない。

人間だからこそ、大人だからこそ、何気なく画面を見ているだけの有限の目を、意味なくSNSに言葉を打ち込んでしまう潜在能力を秘めた手を、自分が何かを創造するために使わなくてはいけないんだと思う。
再会の約束をして2年間それぞれの島で修行をした麦わらの一味のように、本気でやれば人の成長に限りはないと信じて、ワンピースが完結する頃にはもっと仲間に、社会に貢献できる自分になっていたい。

【新世界(グランドライン後半の海)】
⑩魚人島リュウグウ王国
○灼熱と極寒の島パンクハザード
○愛と情熱とオモチャの国ドレスローザ
○ゾウ・モコモ公国
○ホールケーキアイランド
(聖地マリージョア)
○鎖国国家ワノ国
○未来島エッグヘッド(冒険中)

【最果ての島ラフテルへ】

ここまでの冒険のどこかで現実の忙しさに、完結後の楽しみに離れている方がいたら、今この時が人生のチャンスだと思って、どうかワノ国にたどり着いてください。
尾田先生、日本がモデルのワノ国編を史上最高傑作のエピソードにしてくださってありがとうございます。お体を大切に、完走してくださるよう心から願っています。

最果ての島ラフテルにあるという「ひとつなぎの大秘宝」をめざす物語。その宝が何かはまだ明かされていないけれど、そこへ向かう冒険こそが宝物なのかもしれない。

どんな人の心にも冒険の夜明けは必ず来る。世界中の多くの人にとって『ONE PIECE』はその勇気をくれる、きっかけの漫画となっていると思う。願わくは『ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~』もたくさんの人に観てもらい、誰かにとっての冒険の夜明けとなりますように。