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『ブラックペアン シーズン2』 第3話「成功率0%のオペの行方!?」 感想


概要

放送局:TBS系列
放送日時:2024年7月21日(日曜日) 21時00分~21時54分

原作:海堂 尊『ブレイズメス1990』『スリジエセンター1991』(講談社文庫)

脚本:槌谷 健
音楽:木村 秀彬
主題歌:小田 和正「その先にあるもの」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
監修:山岸 俊介(イムス東京葛飾総合病院)
プロデュース:伊與田 英徳、武藤 淳、佐久間 晃嗣
演出:加藤 亜季子
製作著作:TBS

番組公式サイト リンク

感想

逆風を追い風に変える男、天城雪彦。
(演者が嵐なだけに)

 これまでと言い今回と言い、天城先生にはまず"逆風"が吹き荒れます。もっとも、半分くらいは天城先生の周りを顧みない態度ゆえの、直球に言えば"身から出た錆"な部分もあるのですが…。しかし、その数多の"逆風"を自分の腕一つで"追い風"へと一変させてしまう。そのオペの腕前は素人目線でも「技術の粋」「究極の領域」と言いたくなるほどお見事(天城先生はこのような褒め方を嫌いそうですが…)。もちろん海堂作品ならでは、日曜劇場ならではの政治劇も楽しみですが、このドラマを見る一番のお目当ては天城先生のメス捌きです。血を見るのが苦手なので少し視線を逸らしながらですが…。

 今回天城先生と世良先生が担当する患者は狭心症で入院している梶谷年子さん(演:正司花江)。当初狙っていた水野製鉄の水野祐一社長(演:梅沢富美男)は高階先生にチェンジされました。既往歴(食道がんと脳出血)ゆえ、天城先生の専売特許である"ダイレクト・アナストモーシス手術"を行えない。そのうえ年子さんは(息子・孝利さん(演:立川談春)の収入だけでは)通常の治療費さえ賄えないという、天城先生にとっては二重の意味で難しい相手です。そのうえ、桜宮心臓外科センター建設のために味方につけねばならない水野社長と桜宮市医師会会長の真行寺龍太郎会長(演:石坂浩二)は天城先生の遠慮知らずな物言いのせいで怒らせてしまう始末。冒頭でも述べた通り、半ば自業自得の逆風が吹き荒れる、天城先生にとって圧倒的不利な状況です。最初のシーンで、勝手な振る舞いがすぎる天城先生を佐伯教授が窘めた時に言った「物事には順序というものがある」という言葉が時間差で突き刺さっていますね…。順序をすっ飛ばすという失態は意図せずしでかす可能性もあるので、十分気をつけたいところですね。
 そんな中孝利さんも仕事中の負傷(足に金属片が突き刺さるというまあまあショッキングなもの)で病院に運ばれます。しかし労災は下りないという衝撃的な展開に。「母親を世帯分離して生活保護を受けさせても、まだ治療費が足りない」という時点で孝利さんの収入が少ないのは察していましたが…このレベルの怪我、しかも業務中の怪我でも労災を下ろさないとはとんだブラック企業ですね…。
 それを見ていた天城先生は「梶谷親子の手術を行う」と予想外な発言を。さすがにこの様には思うところがあったのか…と思いきや、「親子両方の手術費に『孝利さんの人生』を賭けてほしい」という安定の台詞。こういうところに「天城先生が本質的には医療に誠実な人だな」と感じます。根はお人好し…までは行かないけど、「医療で治せる患者は絶対に治す」という月並み以上の善性を持っている。その一方で、文字通り「患者を治す」ことだけを考え、また相手にも「自分の腕に見合った報酬」という形の"誠実さ"を求めているため、それに直接関係しない政治的配慮や根回しの類は彼からすれば「まどろっこしい、無駄な"雑事"」。それ故に周りからすれば一足飛びで生き急いでいるように見え、溝が深まるのでしょう。

 オペ当日。天城先生とは対立関係にある(もっとも、本人はそれに気づいていないでしょうが)菅井教授や水野社長もオペの、正確には「オペが失敗し、天城の名が地に墜ちること」の見学にきます。さらに言えば、高階先生も効果が30分しか保たないことを伏せて治験薬を渡すあたり、天城先生の失墜を望んでいる様子。「天城先生のオペが失敗すること」が何を意味するか、少し考えればわかるはずなのに、"政治闘争"の一環としてこんなことができるというのは、天城先生よりよほど「医療に対して不誠実」と言いたくなる醜態です。
 とはいえ、そんなことは天城先生も想定済み。天城先生は「オペを30分以内で完了させる」としてゲームの縛りプレイさながらにタイムリミットを設定して開始。通常の手順だと30分で「開胸」「ダイレクト・アナストモーシス手術」「閉胸」の全ては間に合わないが、それもまた織り込み済み。「天城先生がダイレクト・アナストモーシス手術を行う」のと同時に「世良先生が閉胸作業を行う」ことで、30分以内に全手順を完了させるという作戦でオペを成功させました。独りよがりなところのある天城先生にしては珍しいとも言えるこの作戦、僕には相方が世良先生だからできたことに見えました。世良先生の医療への熱意と努力家な性格は視聴者一同知っての通り。「オペは"職人技"じゃなくて"芸術"」と称する天城先生ですが、間近で世良先生を見ていた彼だからこそ「ジュノ(世良のこと)ならできる」と託すに至った。いわば天城先生自身も「世良先生に賭けていた」と言ってもよいでしょう。
 そしてここからが天城先生の"セコンド・ピアット(2番目の皿)"(イタリア料理における"メインディッシュ"のこと)。反対派閥に反撃させる隙も与えず、今回の公開手術を種に"梶谷親子への寄付"を募り、孝利さん(水野製鉄勤務)の労災事故を紹介して"水野製鉄への告発"を訴えるという見事なクロスカウンター。いつもながら惚れ惚れする風向きの変え方です。

 ラストで孝利さんが天城先生に言った「あんた、神様みたいだな」という台詞が、「医療の核心」を突いているように思えました。どれだけ優しい言葉をかけても手を尽くしても、患者を救えなければ「良い医者」ではない。言い換えれば、「良い医者」と言われたいならいかなる手段を用いても患者を救う、その一点に尽きる。ということでしょう(元法学部生としては、用いる手段は法規範にもとらない範囲でお願したいです笑)。

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