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『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』 巻之九 感想


概要

著者:和月 伸宏

初版発行:1996年
デジタル版発行:2012年
発行所:集英社

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発行者による作品情報

【デジタル着色によるフルカラー版!】志々雄一派に占領された新月村で、剣心は早くも志々雄と対面。しかし、人斬りではない剣心とは闘えないと志々雄は去り、後に残った"天剣"の宗次郎との闘いで、剣心は逆刃刀を折られてしまう!

Apple Books|和月伸宏『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚─ カラー版9』

感想

 今回、個人的に「何気ない台詞でキャラクターを"魅せる"腕前が凄いな」と感じる台詞回しが多かったです。

 特に魅せられた「何気ない台詞」は2つ。
 一つ目は剣心と尖角の戦いにて、剣心の狙いを聞いた宗次郎の台詞。

へえー
みんな色々と考えて戦っているんだなぁ

デジタル版61頁|第六十九幕「闘いの駆け引き」|瀬田宗次郎

志々雄の側近として大久保利通の暗殺を任され、あの剣心と「剣速は互角」と言わしめるほどの彼が、戦いの場数を踏んでいないはずがない。にもかかわらず、このような駆け引きは初めて見たかのような感想
 ともすれば見逃してしまいそうなほど何気ない台詞ですが、これだけで「"天剣"の字名が示す通り、"天賦の才"だけで並みいる敵を圧倒してきたんだな」ということ、並びに宗次郎の底知れぬ剣才が伺えました。

 もう一つは新月村での戦いがひとまず幕を下ろした後、尖角にとどめを刺そうとする栄次を制止した斎藤の台詞。

どのみち敵討ちせんでもこいつは取り調べの拷問って付録つきで
死刑台送り決定だ
気絶したままとどめをさされるよりよっぽど苦しいぜ

デジタル版93頁|第七十一幕「再び京都へ」|斎藤一

字面だけで言えば怜悧冷徹の極み、人情の欠片もないかのような台詞(それはそれで斎藤らしい)ですが、それだけではない"行間"があるように思えます。具体的に言えば「こいつには俺達(司法)が相応の苦痛と後悔を与えて地獄に送ってやるから、なにもお前が手を汚すことはない」という、斎藤なりの「無辜の民への優しさ」と「悪人への容赦のなさ」を感じました。

 一方、明らかな名言もあります。
 斎藤同様、栄次の敵討ちを止めた剣心の言葉。

時が経てばこの小さな手も大きくなり
お前は必ず大人になる
その時志々雄一派の様に力で人を虐げる男にはなるな
村人の様に暴力に怯えて何も出来ない男になるな
最期の最期までお前を案じ続けたお前の兄の様な男になって
幸福(しあわせ)になるでござるよ

デジタル版95頁|第七十一幕「再び京都へ」|緋村剣心

単なる「敵討ちをしても誰も喜ばない」のような(言葉は悪いですが)綺麗事ではなく、「お前の兄の様な男」という具体的なビジョンを示した未来志向の言葉です。恵さんに"贖罪"の方向性を示した時もそうですが、剣心は基本的に「過去ないし『過去は変えられないこと』を受け入れたうえで、そのまま負の感情に沈まないために何が出来るか、どうあるべきか」というスタンスで語ることが多い。個人的にこの姿勢が好きなのもありますが、"人斬り抜刀斎"という過去を背負った彼だからこそ出せる深みなのかな、とも感じられる名言です。

 総じて、キャラクターに合った言葉選びはもちろん、台詞を台詞で終わらせない"演出力"のようなものが見て取れます。

 一方の左之介も、屈強な破戒僧・悠久山安慈に出会い、"二重の極み"の修行に努めます。文字通り"命懸け"で体得した左之介ですが、その中で相良隊長の亡霊に放った言葉しかり、安慈和尚から「ここは下諏訪」と言われたときの反応しかり、彼の中で"赤報隊の過去"とは折り合いが付けられたんだなと感じました。そういう意味でも、"成長"したなと言えるでしょう。
 ところがこの安慈和尚、実は"十本刀"の一人(本人は隠していたつもりなどなく、「聞かれなかったから答えなかった」程度のことでしょうが)。こういう「気骨や度量のあるキャラが、実は敵組織の幹部だった」と言う展開は好きです。好きですが、これだけ"救世"を語る和尚がそれとは真逆な雰囲気の志々雄一派に属しているのは不自然な気もします。なにか暗い過去があるのでしょうか…。

 そして京都に着いた剣心と操。宗次郎との戦いで折れた逆刃刀(を打った刀匠)探しに取りかかりますが、刀匠の新井赤空は還らぬ人、その息子・青空は刀作り(もっと言えば「闘い(=人殺し)の為の道具を作ること」)を拒む、といった具合で難航。そうこうしているうちに志々雄一派の密偵と思しき者が剣心の存在を察知。新たなピンチの予感です。

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