見出し画像

『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』 巻之八 感想


概要

著者:和月 伸宏

初版発行:1995年
デジタル版発行:2012年
発行所:集英社

Apple Books リンク

発行者による作品情報

【デジタル着色によるフルカラー版!】志々雄のいる京都へ東海道を徒で向かう剣心。その後を追い、薫と弥彦、左之助、そして蒼紫が京都へと旅立つ。道中、不思議な縁で剣心は、蒼紫を慕う御庭番衆の少女・操と道連れになるが…!?

Apple Books|和月伸宏『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚─ カラー版8』

感想

 薫にのみ別れを告げ、独り京都へ旅立った剣心。前半は、あえてひどい言い方をすれば彼に"置いていかれた"人たちの心境が描かれています。左之介は怒り狂い、薫は塞ぎ込み、弥彦は東奔西走する。4巻で左之介が言っていた下記の台詞が頭に浮かびました。

いろんな奴があいつを慕って輪をつくる
人斬りは昔の事で今は流浪人ったって
あいつの周りには常に戦いが絶えねーってのにそれでもな

デジタル版巻之四 58頁|第二十五幕「豪腕対決」|相良左之介

 「慕って輪をつくる」あるいは「剣心の存在を支えにしている」と言えば聞こえはいいけれど、あえて意地の悪い捉え方をすると、それは「剣心に依存する」と紙一重。"輪の中心"が消えた今の有様を思うと、皆どこかしらで剣心に精神的な依存をしていた(もう少しマイルドに言えば「剣心が自分たちのもとから消えないと勝手に思い込んでいた」)、と言わざるをえないでしょう。もっとも、それだけ剣心に「人を引きつける度量」があるとも言えるのですが。

 左之介は斎藤と、薫は恵と一悶着あって京都へ行く決意を固めます。ここでの左之介と恵は名言のオンパレード。
 特に左之介の

さっきから人のことをヒヨッコヒヨッコと言いやがって
そういうてめーはどうだったんでえ
いくら強いったっててめえも剣心も最初から今の強さだったわけじゃねェだろ
十数年前幕末の京都で戦い続けて
そんで明治を築く一翼を担うに至ったんじゃねぇのか

デジタル版 41頁|第五十九幕「京都へ…(後編)」|相良左之介

という台詞には胸を打たれました。
 今でこそ圧倒的な強さを誇る剣心や斎藤も、初めは名もなき一剣客にすぎなかった。それでも"経験"を経て生き残ったから、今に至る。経験が足りないのなら積めばいい(命をかけた死線でそうも言っていられないでしょうが…)。
 一言で言えば「初心忘るべからず」なんですが、それを「左之介達から見たら"雲の上の存在"の剣心や斎藤にも、彼らと同じくらい未熟な時があった」という具体例を出して"重み"を持たせる。これこそ「物語を創る人」のなせる技だと感動を覚えました。
 また、恵の

けどそれはお互い様よ
さよならすら言ってもらえなかった私の気持ちは
あなたにはわからないんだから

デジタル版 57頁|第六十幕「恵の気持ち・薫の気持ち」|高荷恵

という台詞には、目から鱗でした。こういうとき、薫のような「さよならを言われた人」ばかり慮ってしまうのですが、「さよならすら言ってもらえなかった」というのは、非情な物言いになりますが「彼にとっての一番じゃなかった」と言われるのも同然。その悔しさを隠して気丈に振る舞う恵の"気高さ"が伝わります。
 総じて、和月先生が"言葉"や"心情表現"を大切に描いているのが伺える一幕でした。

 後半は、剣心の道中が主。巻町操と名乗る少女と行動を共にしますが、彼女は四之森蒼紫をはじめ御庭番衆に育てられた身の上。その顛末を知っているだけに、彼らの今を言えない剣心。やがて俊足自慢の二人は追いかけっこへと発展していきます。その時の剣心の台詞、

思いを断ち切って忘れた方がよい
それがお主の幸せのためだ

デジタル版 139頁|第六十四幕「鬼ごっこ」|緋村剣心

表面上は御庭番衆のことを聞くためつきまとう操にかけた"説教"ですが、自分自身に言い聞かせた側面もあると思います。大義のためとはいえ、自分もやっとできた「流浪人としての繋がり」を断ち切った身ですからね。こういう台詞は字面以上に辛いものです。

 やがて、死にかけの青年に出会った二人。「俺の弟と村を志々雄の連中から救ってくれ」と頼まれ、新月村に赴きますが、そこで見たのは青年の両親と思しき、吊るされた男女。
 そして押し寄せてきた志々雄配下の者。彼らを殺した理由を見せしめと聞いた剣心は、鬼の形相で配下のリーダーらしき男(余談だが、個人的に彼を"偽武田信玄"と呼んでいる)を吹っ飛ばして一言。

普段なら「ケガしたくない者はさがれ」というところだが
今この場ではそうはいかん…
一人残らず叩き伏せる!!

デジタル版 182頁|第六十六幕「見捨てられた村」|緋村剣心

 迫力が凄い。殺気が凄い。まさに「優しい奴ほど気をつけろ」(実写映画版のキャッチコピー)です。
 斎藤も居合わせ、物語は加速の予感…で今回は終わりです。続きが読みたい。

この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?