見出し画像

青に叫ぶ

ずっと未完成。

『ブルーピリオド』/山口つばさ

とりあえず6巻までを読んだところなので実はまだ途中なのですが、物語的にキリがいい巻数ではあるので、現在進行形でひとつ形にしておきます。続き読んだらまた違う何かを得そうなので、とりあえずとしてね。

この漫画はあらゆる場所で話題になっているのを拝見していて、アニメ化も発表されたので「主人公が藝大を目指す物語」だということは事前知識として知っていました。だから正直、漫画を読む前は「いうて主人公は元々すげえ才能があってちゃんと現役合格するんでしょ漫画だし」みたいな、どこか冷めた気持ちもあった。だって読者が見たいのは主人公の合格じゃん、チートとは言わないまでも、ご都合主義的な部分があるんじゃないの?みたいな穿った見方をしていました。

だったんだけど、一巻読み終える頃には「あ、これ本気でやるやつだ」って考えを改めさせられて。主人公だろうと、読者が何を思おうと、合格不合格は作品内でのキャラの力量で決まるし、そのキャラの力量の成長過程に、チート技みたいな飛び道具は一切合切存在しない。作品内でもそこは触れられているけど(「受かる絵」なんてものはない、と予備校の先生が言うところとかわかりやすいよね)。

だから6巻で物語が一つの区切りを迎えた時、登場人物それぞれが選び辿った道のりに、全て納得させられてしまったし、そこにご都合主義のような、興醒めさせるような要素は何にもなかった。そこまで突き詰めても最後は運であること、運も含めて実力なんだという残酷さも、ありのままに全てが描かれていた。

それから、作中に出てくる作品がマジのガチのやつなんですよね、この漫画はね。多分そのリアルも、納得させられた一つの要因だったのだと思う。その分野に詳しくないからアレだけど、多分見る人が見ればわかるのだろうなと思ったよ。(クレジットとして作者のお名前も載っているというところからも伝わるガチ度)

本気で何かを目指したことがある人間にとっては毒にも薬にもなるから、読むなら覚悟しとけ、という前評判を聞いたことがあって。それこそ藝大を目指した経験のある方々なんかは、読める(=薬)か読めない(=毒)かがはっきり二分していた印象で、「そっち側」の人がこうもはっきり分かれるのは珍しいなと外から眺めてるときには思ってたわけですよ。ぼんやりと。

ただ読んでみたら、そうなる理由がなんとなく分かった。

本気で表現に向き合ったことがある人なら、この物語に描かれる苦しみを実体験として得るんだよね。どこかで必ず、そして何度でも。だから、入れ込んで追体験してしまって徹底的に心が折れるか、身に覚えがある物語の「他人の解」として受け入れられる(=「リアリティがすごい」という絶賛)かになるんだろうな、と。

ここで言う本気で向き合ったってのは、何かでプロを目指すとか、それこそ藝大を目指すとかみたいな、そのゴールのレベルや手段で区別されるものではなくて、ただ自分と、自分の表現というものとどれだけ深く真摯に向き合ってきたか、その「本気」の度合いの話です。だからアマチュアで、好きな何かを趣味として続けたいな〜とか言ってる人でも通る可能性がある地獄で、わたしもその地獄に出会ったし、それからずっと、楽しく地獄と付き合いを続けている。

世界がひっくり返った瞬間の感覚も、出会ってしまったが最後、理論とか世間体とかそんなものを全部ぶっ飛ばしちゃうのも、表現を続けようとしたときに通る地獄も、その地獄は一生付き合わなきゃならないものだということも、結局それでも「楽しい」と表現するしかないほど取り憑かれてやめられないでいることも、その狭間にある瞬間的な煌めきも、全部そのまま真っ直ぐに描かれているのがこの作品だった。

才能って言葉が指すものは色々あるけど、「やり続けられる才能」があることは何よりも強くて、そしてこういう世界では特に必要なものなんだと思う。諦めが悪いと言われても、無謀だと言われても続けること。それは簡単そうに見えて、たぶんいちばん難しいこと。

わかりやすく評価できる才能って、わかりやすい代わりにいつか止まる。満点っていうゴールがあるから。やり続けるってのには評価の指標がないし、何がすごいかも分かりづらい。ただ続けてるだけで評価してくれる人はほとんどいない。

それでも、ゴールなんかなくても、仮に評価というもので測られたとしても、それはある種の上限解放措置なだけで「ここまで満たされましたね、じゃあ次いきましょう」って思っちゃうことが、まだ届かない世界があることを知って悔しいと思えることが、やり続ける才能と呼ばれるもの。いつまでも満たされず、何かをずっと渇望している。だから続けるしか道がなかった。

ただ息をするのに必要だった、それだけのことだ、と言えるひとの強さは、その無自覚な残酷さ。

その才能や意識の差すらもリアルに描いているこの作品は本当に怖いし、自分を見つめ、表現や「欲」に向き合ってきた人間にはその辺りは実感として入ってくるから、自分の立ち位置、「まだやれるのか?」みたいなことまで問いかけられる。

それでも追いかけることをやめたくないと思えるなら、続けないと息ができないと思うならやめないでいいよと、背中を押してくれる作品でもあると、わたしはそう思いました。

続き読むの怖えなぁー……。ほんとこの作品は怖いよ。ある特定の層にとってはホラーよりも怖い物語だと思うよ。わたしホラー苦手だから比べられないけど。


スキを押すと何かが出ます。サポートを押しても何かが出ます。あとわたしが大変喜びます。