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サンラインと18号、もしくは上信越道

人の営みが、パレードのように過ぎ去っていく。

わたしは本を読むのが好きな方である。でも、読書家ではない。

好きな範囲(狭い)をひたすら周回しているので、毎日何かしらの文字を読んでいるはずなのに、積読はびっくりするほど減らないし、「読んでみたい有名どころの本」なんてものは、頭の片隅どころではない遠い彼方へ追いやられている。

そんなわたしだけれど、今日、図書館で『スカイ・クロラ』を借りてきた。

わたしは森博嗣さんという作家の作品を一冊も読んだことがない。だけど、名前は以前から知っていた。それは、有名だからとか、本屋で見かけたことがあったから、とかではなく、友人が話題にしたことがあったからだった。

その友人とは大学で出会い、わたしがB4、彼女が休学中だった年の秋から冬にかけて、よくドライブをした。といっても、いつも彼女の車で、彼女が運転手で、わたしはただのんびり助手席に座って連れまわされるだけの楽な係だ。

夕方ごろ学校を出て、一旦家に帰った後、まずわたしは彼女の家に向かう。カメラ付きオートロックのマンションだったから、呼び出し機を押したら名乗る前に鍵が開く。招かれた部屋には猫がいて、そこでしばらく彼女がピアノで遊ぶので、わたしはそれを聴かせろとねだって観賞する。やがて日が暮れると、だいたいの確率で「どこか行こう」とドライブが始まるのだ。

行先はだいたい東側。上田の市街地から一時間、もしくは一時間半ほど走らせた辺り(だいたい佐久や御代田のあたり)で折り返し、上田に帰ってくる。目的はいつだってなくて、どこを走るかは気分と渋滞次第。意味もないのに高速を走る夜だってあった。

そんな車内では、いつも彼女が話をしていて、わたしは時々聞かれたことに答えたりはするものの、基本的にはただ聞いていた。わたしが話し下手なことと、彼女の気質的なものが相俟って、すっかりその役回りが固定だったが、わたしはこの時間がとても好きだった。

そのいつかの夜、上信越道を走った夜に、彼女が『スカイ・クロラ』というタイトルを口にした。彼女もわたしも当時、小説を書いていたから、小説を書く上で大事にしているロマンみたいなものを話していて、その流れでこの話になったのだった、はずである。記憶が正しければ。

最近、TVerで『すべてがFになる』のドラマが期間限定で配信されていた。それを完走したわたしは、ちょろいので原作が読みたくなって、図書館で探してみた。しかし、タイトルにもなっているこのシリーズの一作目は予約待ちが発生していて、シリーズの他の作品については、ほとんどが図書館にすら所蔵されていない、という。だから、試しに森博嗣さんの著作を読んでみて、好きな文体だったらこのシリーズ買うぞ、と決めて、サンプルでいくつかを借りることにした。

そこで目に留まったのが『スカイ・クロラ』で、同時に、わたしは彼女とあの夜見た景色、あの日の長野県っぽい夜の寒さを思い出した。一文字も読んだことのない、話の大筋すら知らない本が、すでに「思い出」を伴って、わたしのなかにいた。それが、なんだか愛おしく、特別なことのように思えた。

わたしはこれから『スカイ・クロラ』を読む。「思い出」がどういう姿に変化するのかが、今から割と楽しみで、そして、ちょっとだけ怖い。





追記:わたしは小諸のあたりが好きです

このへんとか。

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あと場所が思い出せなかったけど、西に戻る時に結構な坂を降ったところに信号がある道があって、下りが結構なので、前を走る車の数台向こうに信号待ちの車が一瞬だけ見えるみたいなところがあって、それも好き。

サンラインはM2のときに同期と追分に焼肉食べに行った時の道でもあって、ゲリラ豪雨の雲と一緒に移動したから道に思い出が染み付いてたのでストビューしてて心がホンワリしました。

追記2:ヘッダーは父との遠足で愛知県のどこかにいる時に撮ったやつ

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