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歌ではなく涙に

僕が誰かを慰めたいと思って書いた曲は例外なく、実は自分に向けて語りたかった言葉だったということは、疑う余地のないことのようです。

だれかを慰めるように歌ったことを今聞くと、今の自分に向けて10年前の声が歌ってくれているようで、受け取りたいような受け取りたくないような、親にプレゼントをもらった思春期の少年みたいな気分になります。10年前、自分はその時の苦しみを歌にして、歌の中で自分を慰め、歌うことで消化しようとしていました。だからきっと、まだ苦しいのです。
歌にしたかなしみを、10年経った今聞いてまたかなしみ直す。歌は味の消えないかなしみのガムのようなものです。

本当は、かなしみは歌ではなく、涙にしないといけなかった。涙の流し方もわからないまま歌を歌い続けてきたことで、かなしみはいいように化粧をして、僕の手に収まらなくなってしまった。僕にとって泣くことは歌うことに取って代わられてしまったようです。

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