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調布飛行場連中 その7

不公平でイジワルな沖雅也
 調布飛行場連中はそのルックスからして、色恋沙汰とは縁が無さそうだが、その中に一人だけ別格がいた。俳優の沖雅也さんによく似た、イケメンのSKさんだ。そのためか、知り合った頃の僕らの中では唯一彼女がいた。当時はホンダCB350セニアに乗っていて、後にヤマハXJ750Eに乗り替えた。
 ちなみにXJ750Eは僕も同じ頃に乗っていた。750としては軽量コンパクトで、2バルブながらYICSというヤマハ独自の機構を持ち、トルクフルで乗り易かった。しかしスーパースポーツには珍しいシャフトドライブが災いしたのか、さほど一般受けせず、チェーンドライブのFZ750に代替わりした。
 SKさんはそのルックスだけでなく、ライディングテクニックでも、僕らの中ではダントツの存在だった(さらに彼女までいるとは、とても不公平だ)。
 まだSKさんと知り合う前のことだ。僕はヤマハTY125改175に乗って調布飛行場でトライアルの真似事をしていた。調布飛行場の直線道路に沿って、狭い用水路が流れていた。その用水路に架かる橋を渡ると、戦時中に作られた直径15メートルくらいの、円形の水の抜けた防火水槽跡があった。
 周囲を幅40〜50センチくらいのコンクリート製の縁(ふち)が取り巻き、防火水槽の周りを一周出来るようになっていた。水槽の縁は地面より1メートルくらい高く、階段を数段昇らないと縁には乗れなかった。おまけに階段を昇り切って、すぐに直角に曲がる必要があり、少しばかり難しかった。僕は格好のトライアルセクションとばかりに、国際A級選手のフォームを真似つつ、何とか縁を一周した。
 しばらくするとSKさんが現れ、たぶん僕の事を見ていたのだろう、まるで見せつけるようにCB350で階段を昇って(!)直角に曲がり(!)全く同じコースを一周し、「防火水槽セクション」を難なくクリアしてしまった。
 かたや重たいロードバイク、こちらは軽量のトライアル専用バイク。SKさんはバイクの差を、見事にそのテクニックで帳消しにした。確かに僕より上手いのは分かったが、何ともイジワルなSKさんであった。
 その後、SKさんと知り合ってからの事だ。例によって僕らは飛行場でたむろしていた。やがて日が落ちて家路に着く。ロータリーから直線道路に出る。100メートルほど直線を行くと左に60度くらいの角度で折れ、また100メートルくらいの直線となり、正門ゲートを通り抜け飛行場の外に出られる。
 その左コーナーにスピードを落とさず突っ込むのは、かなり勇気がいる事だった。しかしその左コーナーで唯一人、ステップやスタンドを擦って曲がって行くのがSKさんだった。薄暗い景色の中、CB350はスタンドを地面と擦れ合わせ、線香花火のような火花を散らしながらコーナーを駆け抜けて行った。

メーデーは一生の不覚
 ところでSKさんに一生、頭の上がらなくなる事があった。というか、仕出かしてしまった。それは、5月1日に青山で行われたSKさんの結婚式当日の出来事だ。
 IZさんと、八王子でレストランを営むITさん、加藤君と小川君、それに僕の計5名はIZさんのクルマに乗り、調布から式場のある青山に向かった。
 ところがその日は5月1日、労働者の祭典「メーデー」の日だった。まさにその祭典の真っ最中、代々木公園でデモに遭遇しモノ凄い渋滞に巻き込まれてしまった。そして二時間以上も遅刻してしまい(もはや遅刻というレベルでは無いが)、青山の会場に到着した時には、結婚披露宴はすっかり終わっていた。
 SKさん曰く「誰も来ないから寂しかったよ・・・」そりゃそうだ、同じテーブルに着くはずの5人全員が、揃いも揃って来ていないんだから。
 新郎・新婦はもちろん、両家の御両親、御列席の皆々様には大変に失礼なことをしてしまった。僕ら一同、反省しきりであった。本当にすみませんでしたSKさん。
(つづく)

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