190421パラダイムシフターnote用ヘッダ第04章08節

【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (8/19)【異貌】

【目次】

【奏上】

「あなや!」

 何人かの貴族が悲鳴をあげる。この場にいるもの全員が、ミナズキに対して明らかな敵意と恐れを向ける。

 中納言マサザネは、帝と二人の大臣のほうに向き直り、扇でミナズキのほうを指し示しながら口を開く。

「ご覧くだされ、あの異形の耳を! 符術之守ミナズキこそ、妖魔! 人に化けて、宮中へと潜り込んでいた!!」

 中納言は、得意げに声を張り上げる。ミナズキは、「決して余人に耳を見せてはならい」という養父の言いつけの意味を理解する。

「中納言どの、よくぞ知らせてくれた! そして、符術之守ミナズキ! そのほうの官位を剥奪し、追放を命ずる!!」

「いや、帝と我らをたばからした罪、追放では足りるまい……斬首だ! そこの妖魔を捕らえて、斬首とせよ!!」

 二人の大臣が、かわるがわる声を張り上げる。中納言マサザネは、ミナズキに対して勝ち誇った表情を向ける。

「お待ちください……どうか、此方の話を……!」

 ミナズキは、再考を乞う。しかし、混乱と恐慌に呑まれた貴族たちに、ミナズキの言葉は届かない。

「あなや!」

「あなやあなや!!」

 貴族たちは、我先にと逃げ始める。

「帝を安全な場所へとお連れしろ!!」

 右大臣が叫ぶ。

「近衛の兵はまだか!? 早う、妖魔を捕らえさせよ!!」

 左大臣が指示を飛ばす。

 拝謁の場から連れ出される帝を、ミナズキは立ち上がり、追おうとする。その周囲は、太刀を手にした武人たちに包囲されていた。

 近衛の者の一人が一歩踏みだし、ミナズキの冠が踏みつぶされた。ミナズキは苦虫をかみつぶしたような表情で、歯を食いしばる。

「──破ッ!!」

 ミナズキは、懐に忍ばせていた呪符を、足下に向けてたたきつける。とたんに激しい旋風が舞い起こり、武人と大臣らの視界をつぶす。

 符術によって生じた一瞬の轟風が吹き抜け、二人の大臣と近衛の者がまぶたを開くと、そこにミナズキの姿はない。

「……探せ! 捕らえよ!!」

 大臣たちは、あらんかぎりの声を宮中に響かせて、ミナズキの追跡を命じた。

【脱出】

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