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臭い話で恐縮だが

パリからの列車がドーヴィルに到着する手前でPont-l'evequeという駅に停まった。
駅の名前を二度見する。
え?
これって、あのポンレヴェック?

亡くなった父の思い出だ。
父は昔フランスに住んでいたことがあり、この臭い臭いチーズは忘れられないらしかった。
「フランスにはポンレヴェックっていうものすごい臭いチーズがあるんや」
「遠くからでも強烈に匂ってくるねん」
と嬉々として語っていた。
とてつもなく臭いチーズがフランスの記憶を形作っていたのだろう、父はその話を何度もした。
子どもながらに、この人はどうして臭いものについてこんなにも嬉しそうに教えてくるのだろうかと不思議に思ったものだ。

その後、日本にも色んな種類のチーズがフランスから輸入されるようになり、我が家の食卓にも特別な日にはポンレヴェックが出されることになった。
臭いなあ、ほんとに臭いなあ、と言い合いながら家族で食べたのだった。

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どうやら、あのポンレヴェックが、このポンレヴェックのようだ。

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ノルマンディーのレストランでは必ず出てくる。
ご自慢のご当地チーズだ。

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驚いたことに、朝食にまで出てきた。

思ったよりも熟成していない。全然臭くない。
若いままで食べるのがこちらのスタイルのようだ。
あー、本場に来て「臭いぞ、やっぱり臭い」と言いたい!

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そして、出会う。

ワゴンで提供されるチーズの数々。
お好きなものをお好きなままに、という贅沢なスタイルだ。
この豊かさがいかにもフランスという感じがする。
右から2列目がポン・レヴェック。
手前が若めで、真ん中はハーブかなにかが入っていて、一番奥が熟成したもの。
もちろん、熟成した一番奥を選ぶ。

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く、臭い。
しっかり臭い。
どれくらい臭いかというと、牛舎のあの匂いだ。
皮の部分が、まさにあの匂い。わかるね?
ああ臭い。とっても臭い。
何を喜んでいるのだろう、自分は。

同じウォッシュタイプであれば、もっと高級なものはあるだろう。
確かにモンドールやエポワスのとろけるようなおいしさは特別だ。

でも、僕にとってはやっぱりポンレヴェックも特別なチーズだ。
臭いと嬉しい。
父の無邪気な「臭いで~」を思い出す。

懐かしいポンレヴェックを、ノルマンディーで食べている。
そのことに心が満たされる。

なんだか臭い話になってしまった。

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