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『Hamilton』NYブロードウェイ観劇記録レポート⑧

Hamilton

観劇日:2020/3/3
会場:Richard Rodgers Theatre

ロン・チャーナウによる2004年の伝記『Alexander Hamilton 』を基に、アメリカ合衆国建国の父の一人アレクサンダー・ハミルトンの生涯をヒップホップ音楽で綴ったミュージカル作品。
脚本・作曲・作詞・主演をリン=マニュエル・ミランダが務めている。(現在はMiguel Cervantesが演じている)

この革新的な作品は2016年トニー賞13部門16ノミネートを獲得。史上最多ノミネート記録。11部門で受賞に輝いた。

ブロードウェイで公演が始まって約5年経っても満席の客席。ミランダが主演を務めていた頃よりチケットは取りやすくなっているが、値段は他のブロードウェイ作品と比べても高い。2階席一番後ろのブロックで199ドルだった。500ドルを超えるチケットもある。

ハミルトンの生涯をよりドラマチックに演出するため、ミランダは事実とは異なる要素を入れ劇的に表現している。この作品は40を超える曲で構成され、曲が途切れることなく進んでいく。セリフはほぼ無い。

素晴らしい独特な音楽とリリック

この作品の一番の特徴といってもいいヒップホップやラップでミュージカルという部分。
生ドラムとエレクトリックドラムの融合。
弦楽器とヒップホップの組み合わせがこの作品の肝になっていると感じる。
パーカッションを担当するバンドメンバーが2名いる。
一人はドラム,もう一人はパーカッション類(PAD)などを主に担当している
この作品のビートの基本は生ドラムだ。音作りをタイトにし、ヒップホップとの相性を良くしている。スネアの使い分けなど細かい音色の変化がたくさんあり、こだわりを感じる。レコードのスクラッチ音などもリズムに取り入れている。この動画では2人のパーカッショニストがどのような連携でビートを刻んでいるかがわかる。

生の弦楽器や、アコースティックギター、ピアノなど、クラシックで用いられる楽器をヒップホップとうまく融合させている。この作品の時代からある要素と新しい時代を創るんだという勢いをヒップホップやラップなどの要素で表していると感じた。
そして、ミュージカルの要素もしっかりある。繰り返し演奏され、歌われるメロディーは一度聴いたら病みつきになる。繰り返される力強いリリック(歌詞)も特徴的だ。登場人物ごとにキャラクターを反映したメロディーや音色がシンプルな編成の中にもしっかり感じることができる。

この作品で私が好きな5曲を紹介したい。

公式YouTubeチャンネルから全曲聴くことができる。是非聴きながらご覧ください。

開場中ドラムのチューニングの音だけが聴こえてくる。
客席が少し暗くなると静まり返り、他のミュージカルとはお客さんの食いつきが違うように感じる。
たった2小節の前奏で約200年以上前の世界が始まる。

『Alexander Hamilton』

この作品の1曲目だ。NewYork , Just you wait , Hamiltonと力強く歌うこの曲。この歌は主にハミルトンの歴史、初期の人生、そしてハミルトンがニューヨーク市に到着したこともこの曲で説明している。

2009年ホワイトハウスで開催された『Evening of Poetry, Music and the Spoken Word』にて試作曲を披露している。

会場は笑いに包まれ、誰もがヒップホップでHamiltonのミュージカル?
と思ったはずだ。
私がリチャード・ロジャース・シアターで観た満席のお客の真剣な眼差しをこの時想像できた人はいただろうか。
おそらくミランダだけがこの作品のビジョンがみえていたと思う。

1曲目が終わると時代は1776年に。

My Shot

I am not throwing away my shot!と叫ぶこの曲は制作に1年費やしたとも言われている。
「挑戦や野望、そして撃つ」
様々な意味を持つShotという言葉はハミルトンにピッタリだ。

Satisfied

『Satisfied』はアンジェリカの心情を歌った曲だ。1曲前に歌われるHelpless。まずこの曲はハミルトンとイライザの出会いから結婚までを歌っている。アンジェリカはイライザの姉だ。『Satisfied』の最初アンジェリカはハミルトンと妹のイライザに祝杯をあげるスピーチをする。曲中、時間は『Helpless』が始まる時まで巻き戻される。つまり、表向きの『Helpless』。裏面の『Satisfied』。アンジェリカの心情や視点からもう一度時間が進んでいく。この演出は鳥肌モノだ。
そして、アンジェリカもハミルトンに恋をしていたことが明らかになる。アンジェリカは妹の気持ちを優先し自分の気持ちを公にすることはなかった。
なんて良い姉なんだ。

Yorktown

1781年に起きたヨークタウンの戦いを歌ったこの曲。新しい国をつくる。世界がひっくり返るその瞬間。役者のエネルギーが全てひとつになって飛んでくる。照明へのこだわりも鳥肌モノだ。全員にピンスポットが当たり、拳銃を構えるその瞬間。緊張感がたまらない。

What'd I Miss

2幕の最初に歌われるこの曲は、今までの曲調と少し違う。ウォーキングベースが特徴的で時代が少し進んだ様もうかがえる。この曲をメインで歌うのはトーマス・ジェファーソン役のJames Monroe Iglehart。ブロードウェイミュージカル「アラジン」でオリジナルキャストのジーニー役でも知られる彼の力強くダンディーな歌声がとても素敵だった。
そして音響効果も遊び心がある。曲途中、スネアドラムにロングリバーブがかかる。ビートのノリはそのままでスローモーションになり時空が歪んだような面白い効果を生み出している。

緻密な舞台機構と役者のリンク

ハミルトンの特徴的な二重の回り舞台。全米ツアーでもこの回り舞台は観ることができる。それだけ演出面やこの作品になくてはならない舞台機構であると言えるだろう。(通常ツアーでは物量を減らすため複雑な舞台セットなどは仕込まれないことがある)
時間軸を操ったり、速度を変え対比を表したり、役者の気持ちとのリンクがとても気持ちいい。
セットデザインのDavid Korins氏がインスタグラムで解説している。

Disney+にて2020年7月3日配信決定

もともと2021年10月に映画館での公開を予定していたが、急遽配信での公開を決定した。ブロードウェイで生のミュージカルを観劇することが出来ない今、配信するというニュースはとても嬉しい。
この件に関しての詳しい情報はこちら!↓↓

まとめ

アレクサンダー・ハミルトンは対立するアーロン・バーとの決闘で死去する。その生涯を終えるまでの激動の日々。3時間の舞台の中で俳優はその時代を生き、全身で表現している。アンサンブルを含めた全員の「気」が合わさった瞬間、こんなにエネルギー溢れる空間があるのかと衝撃を受けた。

この作品は歴史上の白人登場人物を黒人やヒスパニックの俳優が演じている。アメリカが移民国家であることを視覚的に改めて意識することができる。様々な肌の色や指向を持った多様な人が集まり、語られる素晴らしきアメリカの物語なのだ。
この作品をアメリカで、ニューヨークで、観劇できたことが今振り返るととても嬉しく感じる。

2020.05.29
Sota

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