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空區地車の力学

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意外と知られていない神戸のだんじり祭り。それは神戸の街の特長である「坂道」との闘いでもあった。強力伝の中に勇ましさもあり、曳く者に試練と共感を与え、見る者には「参加したい」という…
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#本住吉神社

空區地車の力学 1.はじまり、はじまり

私は神戸市東灘区で祀られる本住吉神社のだんじり祭り(例大祭)で、空區の地車を曳いています。祭りは1年に2日間しかないにも関わらず、体の中では一年中地車を曳いている”だんじりバカ”の一人です。 しかし、だんじりバカを自称しているものの、1年に2日間しか曳けないので、毎年思い出しながら曳いています。そこで自分のために地車の力学について残したいとこのブログを立ち上げました。 地車といっても、大阪湾を取り囲むように淡路島、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府と約1千台あるといわれ

空區地車の力学その88.大阪の地車で見た秘密兵器「空調服型法被」

私は現在大阪市に住んでいる。 この街にも地車がある。 7月18日、国道2号線を堰き止めて、悠々と地車は進んでいる。しかも子供用の綱も出しているので大渋滞を巻き起こしている。 我が地車が所属する住吉をはじめ御影、本山、魚崎、芦屋の地車も、国道2号線、国道43号線、さらに山手幹線、鳴尾浜線と神戸を東西に走る主要4線を巡行するので、5月の連休は大変な渋滞になる。 本当に申し訳ない。 7月18日、大阪市福島区を走る私の車も地車による渋滞に巻き込まれたが、そこは祭りバカ。車線変更は

空區地車の力学その86.喪中(もちゅう)に祭りに参加できるのか?地車は曳けるのか?

大切な人が亡くなると喪に服します。喪中は亡くなってから1年間です。この間は、祭りに出られないと言われています。 空區若中でも「喪中で今年の祭りは出られません」と言って棄権する若中がいますが、喪中宣言する若中のほとんどは地車愛が強く、大抵は完全休業ではなく、賄い(まかない=若中への料理や配膳をする人)などの裏方に回るなどして、喪に服しているような、服していないような、妙な立場で祭りに関わりを持ち続けます。 「喪中」とは、そもそも亡くなった方との決別ができず、いわば自主的に喪

空區地車の力学その84.神戸の地車への誉め言葉は「強い!」だ

神戸の地車は、岸和田の地車のように「速い」が褒め言葉ではない。 一番の褒め言葉は「強い」だ。 なぜなら神戸は坂の街で、全速力で飛ばせる道がほとんどない。 したがって坂道でも止まらない「強さ」と、下り坂でも止まる「強さ」が求められる。 そしてその強さは、曳き手の絶妙なバランスで成り立っている。 バランスは、3つの力により、良くも悪くも地車に影響する。 ➀自分自身に起因するもの ➁他人(他の若中)に起因するもの ➂自然現象に起因するもの 大前提として、そもそも己一人では重さ4

空區地車の力学その79.2024年度の巡行コース

2024年度の例大祭は、住吉地車にとって大きな節目の年になる。 まず一つ目は、反高林區の地車が平成29年度より使われている子供地車と呼ばれる小型から、本年5月の例大祭では大型の地車にリニューアルする。初代地車は本体に比べて、曳き手が入って曳く「棒鼻(ぼうばな)」が異常に大きいが、2代目地車は本体と棒鼻のバランスが良い。 初代地車は小型故に、2〜3人の大人が本気で力を入れると地車の方向転換は行なえただろうが、リニューアルされた大型の地車ではそういう訳にはいかなくなる。 勾欄(

空區地車の力学その78.無手勝流にもほどがあるが「神功皇后生存説」を私は支持する

私が所属する空區地車は、神戸市東灘区にある「本住吉神社」の例大祭(神事)で巡行しています。 「本住吉神社」の祀神は、住吉三神といわれる底筒男命(そこつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのみこと)、表筒男命(うわつつのおのみこと)と、息長帯姫命(おきながたらしひめのみこと=神功皇后・じんぐうこうごう)です。 このブログの『その37.平仄に合わなくても「神功皇后生存説」を信じる!』でも書きましたが、今回も神功皇后について。 そもそも現在の歴史家の間では、初代の神武天皇から

空區地車の力学その77.One for All、All for One

祭りまであと1か月を切った。 さすがに自主トレが秘かに始まり、いよいよ祭りモードに身体も心もなってくる。遠くの方から聞こえる阪急電車の踏切・遮断機の「カン、カン、カン」の音が二丁鐘の音に聞こえ、脳内を駆け巡るようになる。祭りバカとはそういうものである。 取引先がラグビーチームを持っていたことから、私は40年ほど前からラグビー観戦をするようになった。 百キロを超える巨漢が防具なしにぶつかるので、ルールは厳しく、そのルールの難解さから馴染めない人もいる。 しかし急激にファンが増

空區地車の力学その76.神は細部に宿る

かって若中頭が祭り前の挨拶で何気なく発した 「今日は思い切り暴れましょう」と発した挨拶に 「アイツは何もわかってない」と 怒った大先輩の年寄り(若中の重鎮)がいました。 何故怒ったのでしょうか? 「神は細部に宿る」と言う言葉があります。 私がまだ駆け出しの頃、先輩に言われた言葉です。 「モノづくりにおいて細部まで気を配り、力を注いでこそ モノは目指した形になる。一つひとつ丁寧に積み上げろ、 神は細部まで見ているぞ!」という私に対する戒めの一言だったのです。 神が悪魔になっ

空區若中の力学その75.ハレとケ。

古来、日本人は日常を「ケ」、お祭りや年中行事を行なう日を「ハレ」と呼び、日常と非日常を使い分けていました。 ここ神戸市東灘区に住む者にとって、お正月やお盆、節供などの節目となる儀礼以上に特別な「ハレ」の日は「本住吉神社例大祭」です。 ちなみに地車の方向修正の時の掛け声は「ハレ(張れ)」です。意味合いは「張れ!張れ!張れ!」の掛け声で、地車を引く若中全員に力が入り、ハンドルの無い地車はコマの軋み音と共に方向転換します。 「ハレとケ」のハレとは意味合いは異なりますが、「ハレ」

空區地車の力学その74.スマホ禁止令発布なるか!?

一昨年、私は長年使って愛着を持つガラケーからスマホに変えた。天命を全うしたのと、既にガラケーの新機種がなかったからだ。 とはいえガラケーの使用は、電話とCメールと記録用の写真に限っていた。扱いの悪い私にとって「二つ折り」というのがガラケー愛用最大の理由だった。 いざスマホを持つと電話はLINE電話に変わり、メールはLINEに、記録写真は高画質になった。進化している! 唯一デカいのがたまに傷で、扱いが悪い私のスマホのガラス面保護膜はパキパキだ。 もう一つ、スマホになり寝不足に

空區地車の力学その71.プチっと音がした。

私は大学生のとき左膝靱帯断裂で約3ヶ月入院した。 左膝靱帯4本のうち3本を切り、繋ぎ合わせる大手術だった。その後、約9ヶ月間リハビリを続けたが、正座は今日に至るまで出来ないでいる。以降、左脚を庇う右脚に相当の負担をおかけしている。 結婚し、長女、次女を授かり、長女が高校生だった時、父兄リレーに駆り出された私は1回目の肉離れを経験した。右ふくらはぎだ。 プチっと音がした。 ただただ父としての役割を全うするため父兄リレーに出場して、1回目のプチっ!となった。 その後約1ヶ月間、「

空區地車の力学その70.もしかして地車はUFOか!? 本住吉神社はその交信基地か⁉

住吉の地車にとって本住吉神社は聖地。高校球児にとっての甲子園と同じ。 にもかかわらず、本住吉神社は震災で崩壊する前から、威厳や荘厳という言葉が全く似合わない普通の神社でもある。分家の弓弦羽神社(神社とは全く無関係の羽生結弦の聖地となっている)の方が余程雰囲気の中に佇んでいる。祭りの日は、タイムズ化した境内の車はすべて撤去され、替わりに屋台が軒を連れる。が、それにつけても荘厳さは全くない。 しかし、本住吉神社は神功皇后が三韓凱旋時に建立した歴史ある神社だ。当時は祠があった程度

空區地車の力学その69.空區の宮入りは神がかっている

かって空區の地車は住吉一の巨体だったが、最近は地車の巨大化が進み空區地車と肩を並べる地車も増えてきた。 そもそも地車は神社の所有物ではなく、氏子が作る氏子の所有物なので、地車小屋に入るギリギリの大きさにしたくなるのが人の性。 こうして大きくはしたものの、巨大ゆえに持て余すこともある。 例えば宮入り。 神殿の前まで進んだ地車の前を持ち上げ(前輪ウイリー状態)、3回上げ下げを繰り返し、そのまま前を持ち上げた状態で時計回りに回す。その間、前を下ろしてはならず上げたまま時間内可能な

空區地車の力学その68.地車は体格・実力主義!これは不公平ではない!!

5月5日の宮入りは1年に一度、運が良ければ神と出会える日。 しかし、この日は最も観客の多い日でもある。 したがって、不謹慎な若中は、観客に酔いしれ目立つことだけを考えてしまう。しかし、重さ4トンの地車の前を上げたまま、何十回となく落とさず回さなければならず、いくら不謹慎な若中とはいえ、否応なく汗だくになって必死で、担ぎ、回すしかない。 一日中曳いても塩を吹くこともなかった法被が、汗でぐしょぐしょ、ヨレヨレになる。宮入りが終われば見事に帳尻が合う汚れた法被となる。昼間サボった若