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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その59

「どうして、アタシが彼の事件に関係しているの?」

早朝の駅は、地方から来た人たちで朝からごった返していた。
内乃利子をその雑踏の中に見つけた五十部警部は、彼女を改札の端へ引っ張って行き、佐藤種夫の行方を知らないか?と問い糺した処であった。
佐藤種夫は不良グループの頭目であり、
ヒロポンの密売人としての疑惑もあった。
彼らのグループは、収益の為に様々な犯罪にも手を染めており、
ヒロポンの密売人と恐喝や窃盗のグループとに
二分され、その両方を彼が統括していたのだった。

五十部警部は、グループに関して
時折タレ込みを得ている飯喰いの一人から情報を得ていた。
それに依ると、佐藤はヒロポンに混ぜ物をして、
嵩を増やしその分の利益を着服した疑いで、タネ屋と呼称される大元の製造組織から睨まれていた。
また、彼のグループからヒロポンを買っていた中毒者の中に次々と変死する者が表れた為、彼が仲間の中に他の組織からスパイが紛れ込み、小分けにしたヒロポンの中に毒を仕込んだのではないかと疑い、仲間内でスパイ摘発の活動を始めていた。

しかし、それが却って紛糾を呼び、どうにもならなくなった佐藤は、手持ちの金をかき集め、故郷である九州のある町へ帰ることにしたのだという。
以前から、好意を抱いていた内乃利子に一緒に来てくれと頼み、承諾を得て、この日の早朝に早くから開いている駅前の食堂で待ち合わせの予定だった。
内乃利子はまだ二十になったばかりだったが、
数件の強盗傷害と一件の殺人に関与した疑いがもたれていた。

早朝にも関わらず、駅前食堂は戦争のような
喧噪の中で、大勢が飯を掻き込んでいた。
ご飯と豆腐汁。焼き魚の塩鮭と芋の煮つけ。
怒鳴るように注文した五十部警部も、
大勢の調子に合わせて飯をかき込みながら、
佐藤と内乃を待ったが現れない。
そこで駅の改札口付近を徘徊していると、
運よく内乃利子を見つけたのだった。

「本当に彼がどこに居るか知らないのだね?」
「知らない」
「君はこんな朝早くからどこへ行く心算なんだね?」
「祖母の具合が悪いから見舞いに行くだけ」
こうした押し問答のような会話が少しの間続いていたが、五十部警部の所へ、坂木刑事がやって来た。
「今しがた佐藤の遺体が川から上がったそうです」
五十部警部は冷たく内乃利子を睨みつけた。
「来てもらうよ」
 
その理由は何かな?
 




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