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最近読んだアレやコレ(2020.12.13)

 先日、逆噴射小説大賞のリザルトが発表されまして、拙作『降洋量を測る』が最終選考まで残っておりました。いぇ~い! しかし、あれですね。noteの仕様上、誰かの記事内で自記事が引用されていると、noteを開いた時点で画面にでかでかと通知が来るじゃないですか。本文を読まずともその時点で、自記事が賞発表記事に引用されいてる=少なくとも最終選考は通った!もしかして大賞!?ということが察せられるんですね。第1回の時もそうだったのですが、その「もしかして!」と焦りながらスクロールする瞬間が凄く好きです。第2回では最終選考に落ちてしまったのでそれがなかったのは残念だった。今回はそのリベンジという意味でも嬉しかったですね。ただ、スクロールして大賞になってたらもっと嬉しいでしょうね。是非、来年も酒をめざしてパルプっていきたいところです。

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誰のための綾織/飛鳥部勝則

推理小説に禁じ手などあるのだろうか。おそらく、ありはしない。」というむちゃくちゃイカした一文によって開幕する、飛鳥部ミステリ10作目。不良女子高生たちが誘拐されて孤島に閉じ込められる。その犯人は彼女たちがいじめ殺した同級生の家族で……というシンプルな筋立ての一作。しかし、本作は、それを語るにあたって作中作という突飛な構成をとっており、その読書体験には「この小説は一体誰のために書かれているのか?」というタイトル通りの疑問が常につきまといます。その疑問符に冒頭文を添えることで浮き上がってくるものは、一切油断ができない騙しの危険地帯であり、正面に立つことに身の危険を覚えるファイティングポーズです。実際、その解決編は、新しく、挑発的で、妖しく、何よりチャレンジングな素晴らしいものでした。我慢できずに、古典的手法でネタバレしちゃいますけど、○○○○ってことですね。虚実の狭間とすら定義しがたい、全編にかかったソフトフォーカスは、謎が解かれることでより濃く、可視性を低くする。種々の事情によって絶版・回収となった作品であり、手に入れるためにがっつり大枚をはたくことになったのですが、とてもおもしろかったです。飛鳥部作品の中でもかなり好みでした。


新本格魔法少女りすか/西尾維新

 再読。十数年ぶりに最終巻が発売されたという報を聞き、シリーズを頭から読み返さねばな、ということで。停まっていた青春を終わらせるために再びエンジンを動かし始めたわけですが……二重かぎかっこが乱舞し、傍点が山のようにふられ、決め台詞の左右の行が空行になっているこの感じ……今となっては、痛がゆく、おもはゆく、こっぱずかしい。しかし、そんな衝動を歪めて二段組みに押し込めたからこそ生まれ得たかぶりつきの裸の迫力が、一見空虚に見える文章装飾にぬらぬらとした熱を帯びさせているのです。あらすじは王道のボーイ・ミーツ・ガールであり、知恵と工夫で少年少女が悪い大人と戦う異能バトルなのですが、なんなんでしょうかこの歪さは。「出血と痛みを伴って大人に変身する魔法少女」という、あまりにもあまりな設定に代表されるように、とにかく全編が生理的な嫌悪感に満ちています。それは、言ってしまえば軽薄な露悪性なのですが、その奇を衒う姿勢はどこまでも必死であり、「死にもの狂いでふざけている」とでも言うべき有様は、目をそらすことを許してはくれません。空虚であろうとも、欠けているからこそ、パワーを宿しているのです。


新本格魔法少女りすか2/西尾維新

 再読。今回、読み直すにあたって本棚から講談社ノベルス版を引っ張り出してきているのですが、このシリーズ文庫が出てたんですね。リンクはそっちを貼ってます(kindleがあるので)。調べた限りではノーマルの講談社文なのかな。 西尾維新文庫っていう特製レーベルがありませんでしたっけ? 『難民探偵』とかはそっちから出てたような。しかし、改めて再読して本当に尖っているなと思うのが、語り手が共感することが難しい癖のある性格をしており、かつ、ヒロインが異国出身であるためまともに日本語をしゃべれないという二つの設定。このダブルパンチに、前述した生理的嫌悪感を催す描写も種々加わることで、めちゃくちゃ可読性が低くなっているんですよねこのシリーズ。読んでいて、一口で飲み込み切れない。弾性の強いぶよぶよとした肉の塊を噛み続け、あきらめてえいやと飲み込んだときのような嘔吐感が延々続く。歪ですね~。たまんねえなぁ~! ……あと、内容はほぼほぼ忘れていたのですが、人飼無縁戦だけは解決編に至るまで覚えていました。「体表面に口を作る」という能力の応用の仕方が鮮やかなんですよね。とてもおもしろい。スマート。


ZINGNIZE(1巻~4巻)/わらいなく

 2巻以降を読めていなかったのですが、先般、KEYMANを読み返したらおもしろかったので。KEYMANは、「恐竜にヒーローにおっぱいに暴力にアクションと、インクのように真っ黒になるまで煮詰められたエンターテイメントを、脊髄に直接流し込んでくる快楽に満ちたたのしいまんが」だったわけですが、今回は恐竜とヒーローの部分に忍者が代入されており、私は恐竜とヒーローよりも忍者の方が好きなので、今作の方が好みです。とにもかくにも、本能的に訴えかけてくる快楽度の高い漫画であり、「すげえ!」「つええ!」「かっけえ!」「おっぱいでけえ!」と小学四年生のような歓声をあげ続けることになります。難しい命題に取り組み続け、真面目にならざるをえなかった、ゆえに、血を流しもがきあがく苦闘が胸に迫るものがあった前作と比べると、本作は、どことなくお気楽で愉快な雰囲気をまとっており、そういう点でも大変好きですねえ。ちょっとぬけたところのある、すっとぼけた作品が好きなんですよ、私。そういう点でも、MVPはアフロ小太郎さんだと思います。ふざけているのに残酷で、めちゃくちゃいい悪党をしてる。画面に映ってるだけでおもしろさにバフがかかっている。