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【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.1.19)

 下にエラリー・クイーンの文字が見えてる通り、最近、古典ミステリを読んでるんですがいやーやっぱおもしろいですね。クリスティもクイーンもカーもヴァンダインもなんですけど、謎解きの出来不出来以前に、エンタメとしての地力がクソ強い。キャラだてが強い。展開が強い。文章が強い。装飾が強い。そもそも、世界最初の長編推理小説とか呼ばれてる『月長石』からして、最高のエンターテイメントノベルですからね(月長石はマジでおもしろいのでみんな読もうな)。優れた謎解きとは優れたパズルであるが、優れた謎解き小説とは優れたパズルではなく優れた見せ方であるという文言を今考えたんですがどうでしょう?一部からは怒られそう。

エラリー・クイーンの冒険/エラリー・クイーン、中村有希

 オールドスクールを学ぼうその1。ロジック・ミステリの帝王、エラリー・クイーンの第一短編集。初読。クイーンのロジックは、丁寧に精緻にピンセットで銃をくみ上げて放つ弾丸、あるいは、迷宮の底へ底へと向かう潜航というイメージがあったのですが、それは長編特有のものであり、短編ではまた別の顔を出すのですね。重ねて比喩を使うならば、恐ろしく早い一閃で、臨界点ギリギリに達した水面を剃り切るような。ワンアイデアを磨き上げ、一瞬で燃やし尽くすような。また、長編と比べ謎解きがシンプルであるからこそ、エラリー・クイーンのエンタメ小説家として地力が剥き身になっているのも興味深いです。キャラ・台詞・文章・ユーモア、その全てが、現代人感覚でも最高ランクの「おもしろい」をこちらにぶつけてくるので、ビビり散らかす。謎解きパズルを作らせても天才、小説を書かせても天才とくりゃあ、推理小説のてっぺんとって神になってもしょうがないってもんでしょうぜ。お茶目なシチュエーションが光る「アフリカ旅商人」、謎解きパズルとしての完成度が圧倒的な「ガラス丸天井付時計」、最後の最後に本格路線から少し「狂って」みせる「いかれたお茶会」の三作が個人的なフェイバリット。


呪術廻戦(8,9巻)/芥見下々

 呪術バトル漫画最新刊。二巻まとめて過去編。最強格の味方を敵が工夫して攻略するシチュ、チート能力持ちでも内臓刺されたら死ぬ人体のもろさ、ぬるっとメインキャラが死ぬ質感、クレバー風味(クレバーではないことが重要!)の戦闘応酬と、例によって「俺の好きなちょっと王道から外れたジャンプ漫画」の詰め合わせパックであり、芥見先生ありがとぉ~!って感じである。天内ちゃん、パパ黒さんを通じて描かれた「最初からわかっていたはずのこと」「その上で覚悟を決めていたはずのこと」からブレる人間の姿が、そのまま夏油くんと重なり、彼の離反へと繋がる説得力が素晴らしい。私、ドラマチックで物語的にわかりやすい(語弊あり)、たった一つのトリガーがもたらす犯行動機にはリアリティを感じない性質でして。なんかこう……言語化できない複数・複雑な要因が重なり合って、総合点でふっと境界線を越えてしまう、そういうのが好きなんですね。魍魎の匣の影響ですけど。その点、夏油くんの犯行動機は、まさに前述した私の理想そのまんまで、非常に説得力があり、リアリティを感じました。とてもよかった。


白い僧院の殺人/カーター・ディクスン、高沢治

 オールドスクールを学ぼうその2。雪密室(積雪上に足跡を残さず、犯行現場への出入りが行われる密室)ものの古典名作にして、H・Mシリーズ第二作。館に到着して即殺人が発生し、以下ずっとそれに右往左往し続けると言う攻めたプロットがおもしろい。複雑な人間関係がもたらす、複雑な状況が、展開をあっちゃこっちゃに転がしまくり、お話がどんどんぐちゃぐちゃになってゆくのですが、ゆえに、そのぐちゃぐちゃの話のド真ん中に居座り続けるシンプルで強固な雪密室の存在感が凄まじい。話がとっちらかすことで発端の謎を際立たせるというこのアクロバティックな構成は、一歩間違えれば失敗作なんだけども、それを悠々と渡ってしまうあたり、古典の地力恐るべしというか、カーのアイデアをプロットに落とし込む能力は相変わらずイカれてんなというか……。江戸川乱歩さんが絶賛したというトリックも、とんでもなく凄く(これまたあまりにもシンプル過ぎて、油断するとその凄さを見過ごしそうになるほど、凄い。読者の視点誘導と、固定概念の打破が巧すぎる)、参りましたとしか言いようがないですね。


衛府の七忍(6~8巻)/山口貴由

 新刊発売に伴い、沖田編をまとめて読み返したんですが、超おもしろいですね。……あとはその……超おもしろいですね……。……。宗矩の兜割り最高でしたね…………。……………。いや、無理ですねこれ。感想書けねーよこんなの。尋常ならざる熱と熱で言語が焼きとける。ちょっと怖くなってしまうくらいガチでマジな真剣なのに、どう見てもふざけたおしており、読んでると脳味噌がバグる。推理小説でいうと横溝正史ですね(横溝正史は常に大真面目であり同時にふざけ散らかしてるので)。なんの脈絡もなく沖田総司がタイムスリップしてくることに、全く違和感を感じさせないこの筆力は一体なんなのか。鬼も剣豪も、それを描き出すパワーが尋常ではなく、画面に映るだけで「あっ無理だこれ強すぎる」と心の底から確信させられ、希望と絶望が脳内で高速回転し続け、自己の認識が強制的に上書きされ続けて気が狂う。最後に唯一に言葉にできたことを書くとするなら、沖田の必殺技の、人外のテクではあるけれど、あくまでも人間の技能がもたらす小技であるという絶妙な質感が好きですね。