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【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(19.10.5)

 逆噴射小説大賞の本線が目前に迫り、MEXICOから吹き抜ける乾いた熱風が心地よい今日この頃、皆さまいかがおすごしでしょうか。私はと言いますと、一作目の内容はほぼ決まったものの、タイトルが全く決まらず、全く決まらず、三日間ずっと考えてるのにさっぱり決まらず、一向に書き出すことができない日々を送っております。この土日中には一本くらいは完成させておきたいですけど、10月4日が狂気の漫画新刊発売ラッシュだったので(ワンピースと恋するワンピースと鬼滅の刃と吾峠呼世晴短編集とチェンソーマンと火ノ丸相撲とニンジャバットマン下巻と呪術廻戦の新刊が出てワールドトリガーと火の丸相撲後日談が配信された)それどころではないかもしれません。

ラーメン発見伝(1~26巻)/久部緑郎・河合単

 巷で噂のラーメンハゲを私も履修してみるかと軽い気持ちで読み始めたら、気が付いたらkindleに全巻が揃い、平日の睡眠時間が消し飛ぶ破目になった恐るべき漫画。「ラーメンは枠の無い自由な料理」という前提の説得力がとにかく強く、芸術と商売、創作と制限という永遠の課題を語る手段として、ラーメン以上の題材はないのではないか?と錯覚してしまうほど。様々な制約の中で自分の理想を追い求めることは難しく、しかし、一切の制約がない中で自分の理想を見つけ出すことはそれ以上に難しい。「枠を持たない」という定義の元に、客・店・土地・文化・心理・環境・世界と「ラーメン」が内包するものをガンガン拡大させ、料理漫画の枠組みすら飛び越えてゆくのがとても好きです。料理はラーメンという宇宙が持つ一要素に過ぎず、ゆえにこれは「料理漫画」ではなく「ラーメン漫画」なのだ。

らーめん才遊記(1~11巻)/久部緑郎・河合単

 発見伝がおもしろかったので続編も読むかと軽い気持ちで読み始めたら、気が付いたらkindleに全巻が揃い、平日の睡眠時間が消し飛ぶどころか一度徹夜する破目になった恐るべき漫画。信じられないことに前作よりもおもしろい。一つの専門ジャンルを描きぬいた名作は、その本質を描きだす内に、やがてそのジャンルを超えた万事に通じる道理を見つけ出す。しかし、既に宇宙の如く拡張された「ラーメン」は、本作において再度たった一杯の小さな料理まで縮小し、その定義を問いかけてくるのでした。定義なきものの定義を語る言葉は、その発話者の全てと等しい。芹沢が最終巻で語った定義は、おそらく前作主人公の藤本とは異なるもので、ゆえに、そこにはその言語化に辿り着くまでの彼の全てが込められている。制限なき無辺の自由の中から自己という一杯を掬いだすことこそがラーメンであり、それは、自分の物語を名付ける行為と似ている。それは当然で、なぜならば、ラーメンとは、「ラーメンを語る言葉」そのものなのですから。

盲目的な恋と友情/辻村深月

 視野の狭く思い込みの激しい愚かな主人公を描かしたら天下一の辻村深月が、複数の主人公の多視点ものを描くという残虐非道。彼女が語る恋も、もう一人の彼女が語る友情も、その中で生まれた苦痛も懊悩も喜びも、全てが二者の物語のすり合わせにより、見当違いの滑稽な独り相撲として滑り落ちてゆく。物語中で語られるあらゆる言葉が、タイトルに冠された「盲目的」な一言に斬り殺されてゆく様は、あまりにも容赦がない。しかしそれでも、主観が帯びる身勝手な熱は、密室の中でどこまでも増幅され、時に客観性を焼き尽くす業火にまで育つことがあるのです。神の視点を打ち破ることがあるのです。辻村深月という小説家の構成要素が全て含まれ、かつその全てが見事に噛み合ったド傑作だと思いました。すげーおもしろかった。

探偵ゼノと7つの殺人密室(1~4巻)/七月鏡一・杉山鉄兵

 殺人建築家が建てた殺人館で起きる殺人トリックによる七つの殺人! でも、どれも「紐で鍵を閉めたんだ。へえ……」系の機械型物理トリックだし、驚きや納得に繋げるためのトリック外周の必然性や論理の整備はほぼ全くされていないし、必然、探偵の推理も推理というよりは館の構造調査でしかなく……が、変な館で破天荒なトリックで人を殺しまくりたい!という新本格ミステリの初期衝動を、昇華させず、初期衝動のまま形にしたような本作は、たまらなく愛おしいと思うのです。整合性や完成度のために、磨き抜くことで失われるものは確かにあって、その「失われるもの」だけでできあがったこのお菓子の城は、空虚であっても、とてもとても甘く、とろけてしまうのでした。