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ネクロのあとがき シーズン1

【ネクロのあとがきとは?】

・小説「ネクロ13」のあとがきです。
・散漫的にだらだらと思いついたこと思い出したことを書いています。
・第1話「NECRO12:電波塔でバラバラ」のネタバレを含みます。
・第2話「NECRO1:みんなで蜂退治」のネタバレを含みます。
・第3話「NECRO2136:指切りげんまん」のネタバレを含みます。
・第4話「NECRO4:地獄くんだり」のネタバレを含みます。
・番外編「necro4:阿田華行最終バス」のネタバレを一部含みます。
・本編は以下のリンクです。

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【シーズン1 について】

 「ネクロ13」という小説は、元々ダイハードテイルズによって開催された第3回逆噴射小説大賞への投稿作品です。この賞は小説冒頭800文字のみで競い合う特殊な型式のパルプ小説コンクールであり、私は投稿するにあたって「投稿作は最後まで、少なくとも第1話まではきちんと設計した上で投稿しよう」という個人的な制約を設けておりました。なんかその方が冒頭800字にしっかりとした血が通う気がしたんですね。ちなみに、「ネクロ13」は普通に一次選考で落ち、別の作品が最終選考まで残りました。

 で、この「ネクロ13」についても、制約通りきちんと第1話を設計し、最後までの流れもぼんやり決めたわけなんですが、思いのほかその第1話が大規模になり、第1話というか、シーズン1になってしまいました。そういうわけで生まれたのが「ネクロ13」のシーズン1……「NECRO12:電波塔でバラバラ」「NECRO1:みんなで蜂退治」「NECRO2136:指切りげんまん」「necro4:阿田華行最終バス」「NECRO4:地獄くんだり」の5本です。阿田バスについては、元々本編のつもりで組んでいたんですが、内容がかなり特殊であり、省いてもまあ問題なかろうということで、サブストーリーに移しました(内容は逆噴射投稿時点に決めていた通りのものですけど)。省いたことよる調整はしてないので、もしかすると全四話だけでは読みにくくなっちゃったかもしれません。すみません。

 私は自分の好みに則って小説を書くと、複数のキャラクターが自己分析と他者分析をべらべらくっちゃべり、それらを相互に延々擦り合わせるような動きのない内容になってしまうのですが、今回はそもそも逆噴射投稿作ということでパルプを意識し、第4話まで抑え気味にしています(抑え切れてませんけど)。設計・作成の上で意識していたことは、派手であること、ハレであること、のんきであること、雑で適当でいい加減であることでしょうか。「野晒しになった場合も忘れずに怨みつづけてはいるものの、湿っぽく祟ったりはしないしね。野晒し骸骨は善く笑い、善く唄う」という『狂骨の夢』のセンテンスが本作の根幹にはあり、アンデットたちにはやっぱり図太く元気でいて欲しいんですね。『狂骨の夢』以外に影響を受けている作品を列挙するなら、中島望のアクション小説、白井智之作品、平山夢明作品、『ドロヘドロ』、『殺人鬼探偵』、『バイオーグ・トリニティ』他舞城王太郎作品、あと、やはり『ニンジャスレイヤー』になると思います。

 シーズン1の作者視点での総括は、「ほぼ設計図通りの完成品になりよかったな」という感じです。主人公内面のプレゼン、ボス戦チュートリアル、背景舞台の紹介、主人公外面のプレゼン、それらそっくり全部を総括した上での主人公の勝利と敗北……という大枠の流れをまず決め、エピソード単位に切り分け、恋人たちを配置してゆく形で話を作りました。恋人たちは、シーズン1中にボタンを除く全員を登場させたかったのですが、なにしろ13人もいるので大変でした。ジルの置き所はマジで困った。で、そこから細部も詰めてゆき、投稿時点で、電波塔・蜂退治については台詞レベルまでほぼ全て、指切り・阿田バス・地獄もざっくりとした登場キャラやコンセプトまでを作りこんでおいた、という感じです。ただ、実際に書いてみると決めていた内容から外れた部分も2つありました。具体的には、タキビとハヤシなのですが、彼女たちについては地獄のあとがきで。

【NECRO12:電波塔でバラバラ について】

 本人視点でのネクロの紹介と、シリーズ全体のコンセプトの明確化。第1話というよりは、ゲームのオープニングムービーといった風情の内容です。これだけグンジとの恋愛を盛り上げておきながら、その直後に全部パーになってるのは、さすがにどうかと思います。グンジには本当に申し訳なかったのですが、その代わり彼女は恋人たちの中でも破格の登場量となっていますし、犯人のプラクタもそこそこひどい目にあわせています。まだ第1話であり、本人視点からのネクロプレゼン回ということもあって、「自分勝手な乱暴者」の要素を見せつつも、恋愛模様はまだ双方向性の平和なものですね。小説としてやりたかったこととしては、主人公の名前がやたらたくさん呼ばれること、あとエピローグでしょうか。各地の恋人が歌舞いて終わるこの演出は、確か当時読んでいた『名探偵のはらわた』の影響だったと思います。書いてて楽しすぎて、2話以降でも使いまわすことになりました。

 ネクロという主人公は、他のキャラクターを描写する道具、そして動かしやすいキャラとして、スッカスカの空っぽ野郎にデザインしました。愛に関するうんぬんも「こいつ適当なこと言ってやがんな」と思いながら書いてます。プログラムが単純なため、Aという刺激に対してどう行動するかを、全く考えずに済むのが作者としては助かりますね。外見描写が巨体であること以外全くなされていないのも、その内面造形にひっぱられるものであり、作者としても、彼のビジュアルイメージは作っていません。シナリオを映像で練っているときにも、なんか常にもやもやした黒い塊が動いています(第4話で登場する「亡者」の外見は、作者脳内ネクロのデザイン流用です)。ト書きのように同じ理屈と同じ言葉を繰り返す彼は特に変化することはないですが、彼の周囲の他者や環境が変化することで、それらとの距離は相対的に変化してゆきます。天動説のように動いてゆく主人公になってくれたらなと思っています。

 あと、第1話であるにも関わらず、特殊な不死者が主要キャラになっているのは明確によろしくない点でしょう(ハマチ、カット、グンジ、ネクロ……)。読んでて内容が入りにくかったらすいません。本作の設定面に関しては、起き上がり・黄泉帰り・化け戻りは、読んでいてなんとなくわかってもらえれば……、魂・肉体(ボディ)・自我については、まあ、別にわからなくてもポエム的演出として読んでくれれば……くらいのテンションで書いているのですが、実際のところどのくらい意図通りに伝わってるものなんでしょうね? 

【NECRO1:みんなで蜂退治 について】

 ニンジャスレイヤーが小説中でいきなりゲームをやり始めるのが好きなので、この話でもゲームをしているのですが、折角準備したそのゲームを真面目に攻略することはせず、速攻ちゃぶ台返しをしているのはどういう了見なのでしょうか。告白するとハイヴ・アタック・ゲームはユビキを登場させることを前提に組んだものなので、最初からそのつもりだったんですね。他の攻略法としては、近くの海からバケツリレーで海水を運び、ハイヴ内に流し込むというものがあると思います。アホほど時間はかかりますが、不死者に時間的な制約はないですし。

 前回敵対していたプラクタたちと、なんかいつの間にか仲良くなっているのが個人的に気に入っています。「ネクロ13」は基本的に、このくらいののほほんとした感じで進行してゆきたいと思っており……なんというか、不死者って「永遠の孤独と苦しみ」とか「定命者の別れ」とか、未来編の山之辺くんのネガキャンもあって暗いお話を作られがちな気がしますけど、個人的にはもっと雑に適当にいい加減に、図太く無限の生を楽しんで欲しいなという気持ちがありますね。臓腐市という舞台や厳密性のない設定もそれを祈って創っています。永遠について悩んで欲しくない。近視眼的な楽しさを無限に詰んで、昔のことはどんどん忘れてって欲しい。「ネクロ13」に通底するテーマがあるとしたら、それかもしれません。なので、登場人物の中では最もテンプレートな「苦悩する不死者」に見えるプラクタでも、意図的に編集すればそう切り取れるというだけで、基本的にはのんきな暇人ですし、本人も趣味に明け暮れ楽しくやっているように思います。

 チュートリアルということもあり、ネクロが有利をとれるボスとしてキイロは設計されています。それは「自分の魂を他人に転写する」という能力面での話もあり、「素直ではないが自分の内心を知って欲しい」という性格面の話でもあります。両者はまあ、イコールなわけですけど……。彼女は実際ネクロのことを好いているわけですが、性格上、好意を寄せる相手との対面時にその気持ちを明言はしないわけで……ネクロの視点で語るならば、これは一方的な愛の押しつけと言えるでしょう。「言葉にしなくてもわかる」というのは個人的には好きではなく、あくまで相互理解・相思相愛は言葉を前提としてやって欲しいですね。推理小説はやめないで欲しい。キイロの「大嫌い」という告白は、本話においては素直になれない照れ屋さんとして演出されており、実際本話に限るならそれは間違っていないのですが、同時にネクロのろくでもなさを今後描写してゆく助走のつもりでもありました。

 しかし、チュートリアルボスである以上仕方がないのですが、これだけ頑張ってくれたキイロが第1話でお役御免になってしまったのは悲しいですね。展開上、他の恋人と比べて弱そうに見えるかもしれませんが、それは対ネクロにおいて彼女が相性最悪だったというだけで、実際のところ、魂のないジル以外、他の恋人がキイロに勝つ手段はないように思います(時間がかかるだけでユビキやサザンカも普通に通じます)。サブストーリーで活躍してくれないかなというのが作者の勝手な願いです。

【NECRO2136:指切りげんまん について】

 作成前にガッチガチに設計図(マジで図を書いた)を作り込んだこともあって、とてもおもしろいし、よくできてますね。シーズン1の中では、1番の出来なんじゃないでしょうか。昔から群像劇は癖(へき)でして、伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』とか、恩田陸の『ドミノ』とかに心ウキウキしますし、忍殺でも一番好きなエピソードは「アンエクスペクテッド・ゲスト」です。それぞれのキャラの動きの把握のために臓腐市のMAPを作ったり、設計図をテキストの形で落とし込んで、作成時にはそれを上から塗りつぶす形で文章を書いていったりと、作っていてとても楽しいエピソードでした。配役自体は逆噴射小説大賞投稿時点から変わっていないのですが、ハンザキとマナコの2人の詳細は決めてはいなかったため、2人を恋人にするか兄妹にするかで最後まで迷いました。結局兄妹関係に設定したのは、ネクロに無関係なままに影響を受ける彼らまでもが恋愛シナリオをするということに「都合の良さ」を感じて嫌だったからです。

 内容としては、主人公周りのセットアップが終わったので、そろそろ舞台背景の解像度を上げておきたいね、といったところです。チュートリアルが終わって、アイテム画面とかMAP画面とかを広げることができるようになったということですね。彼が暴れるこのワールドの「枠」を事前に明示しておきたいという意図もありましたし……三人称視点でやるからには、当然、ここまでほぼ描写しなかった他人から見たネクロの姿のプレゼンを、次話への布石としてやるべきだろうという話でもありました。とはいえ、ネクロの愛を全肯定するバレエと全否定するアイサという配役は、作者からしてみてもその意図があまりに露骨であり、やや嫌らしくなってしまった気もします。アイサのネクロ評は、作者のネクロ評ほぼそのまんまなのですが、作者ごときがその立場にあぐらをかいたまま、頑張ってるネクロの「正しさ」に口出しするようなことはしたくなかったので、アイサは思いっきり嫌な奴にしました。嫌な奴にしたんですが、この街においては、なんだかその嫌さが空まわっており、妙に愛嬌のある奴になってしまったという感じです。

 ユビキというキャラクターは、2話であまり扱うことのできなかったネクロの化け戻りとしての特性「迎え入れられた者を、人間1人分にまとめる」をわかりやすく提示するために作ったキャラであり、彼女自身のパーソナルは作者の中でもあまり明確につかむことができていませんでした。しかし、その茫洋としたつかみどころのなさは、自我とスケールの違いすぎる肉体・魂を掴み損ね、あたふた困っている彼女そのものとも言える個性であって、結果的にはよい方向に転んだ気がしなくもないです(ちなみに「悲劇がトリガーとなって街全体を取り込んだ個人」という設定は、『バイオーグ・トリニティ』のスピカの影響です)。13人の恋人たちの人間関係は、仲が良かったり、一方的に嫌われていたり、カにされてたりと色々ですが、他の恋人全員から好かれているのはユビキだけです。

【NECRO4:地獄くんだり について】

 シーズンの総まとめなので、好きなものを全部詰め込みました。いくらなんでも詰め込みすぎた気がします。読者はついていけているのでしょうか。推理の組み立て材料が読者に理解させる気があまりない魂・肉体(ボディ)・自我周りの設定からなのは、さすがに不誠実なのではないでしょうか。「探偵小説なんてやめちまえ!」「やめていいわけないだろ!」をやるには、もう少ししっかりと探偵小説をやっておくべきでしたね。すみません。

 黄泉帰りのゴーストとしての側面をここまで扱うことができなかったので、ハヤシはそれをわかりやすく体現させたキャラクターとなっており……そして、私にとっての「ゴースト・ストーリー」は、飛鳥部勝則作品であり、「推理小説についての推理小説」であるため、本作の内容も必然的にそういう内容となりました。ネクロの真相決めつけの妨害役として、必要最低限の仕事をして速攻退場したネアバスくんが個人的に好きなポイントです。あまりにもあけすけな「役割としてのキャラ」っぷりですが、実際、ハヤシがそういう意図をもって彼を登板させているので当然でしょう。ネアバスくんがいなかったら、この話はネクロが速攻で真相を看破して終わったはずです。余談ですが、作者である私は「探偵小説」よりも「推理小説」と呼ぶ方が好きです(オリジナルは「探偵小説」であり、「推理小説」は「偵」が当用漢字外であるため作られたワードなのですが、そういう経緯とは関係なく、語感が「推理小説」の方が好き)。ですので、本編において探偵小説という呼称が使用されているのは、作者ではなくハヤシの語彙に準拠した結果であり、また「ネクロ13」において唯一本当の退場者になってしまった彼女への謝意でもあります。

 複数のキャラクターが自己分析と他者分析をべらべらくっちゃべり、それらを相互に延々擦り合わせるような内容ですが、最低限パルプであるために物語は動かせ続けようという意識は一応持っており、そういう意味でもくっちゃべることで話が動いてゆく推理小説というフォーマットは有用でした。ゆえに、「どういう話なのか」については、キャラたち本人が早口長文で喋ってしまっており、特に書くことがありません。なので、制作面での裏事情の話をするのですが……ハヤシは元々「物理レイヤー上に発生する肉体が殺されると、取り憑いているレコードが消滅する」黄泉帰りとして設定しており、臓腐市から「死」が消滅した原因でもありました。ただ、ちょうどその頃、ジャンプでアンデッド・アンラックにチェンソーマンと、謎の概念消滅ブームが発生しており、この設定はお蔵入りになりました(2話で、グンジが不死者発生の原因としてハヤシを匂わせるような台詞があるのがその名残です)。大きな影響としては、ハヤシ=ミィの設定が後付けで生えたことですね。阿田バスでプラクタがハヤシの肉体を破壊したことで「動物園」が消滅し、それが後々、バレエの話へと繋がってゆく予定もあったのですが……その線もなくなっちゃいました。あと「ハヤシが林凪沙の名前を借用していたのはなぜか?≒林凪沙は結局どういう奴だったのか?」を説明するかどうかは、最後まで迷いました。野暮だなと思ってやめたんですが、一応、理由は存在します。

 タキビは、本作で唯一、逆噴射小説大賞投稿時点で何も設定が決まっていなかったキャラクターです。「口が悪い」「ネクロが嫌い」「サザンカの妹」以外、本気で何も決めていませんでした。これは意図してそうしたもので、というのも、不確定材料を残しておかないと、制作中の自分の楽しみが減るのではないかという危惧があったためです。ハヤシが予定外の設定変更であるなら、タキビは予定内の設定変更でした。彼女についてはアイサと同じく、ネクロについての作者の本音を語る枠でもあり、同時に彼女は彼女でネクロと同じくらい極端じゃないの?という奴でもあります。私はどちらかというと、言葉を通じて「共感(わか)らなくとも理解(わか)る」を好む方なので、「理解(わか)らなくとも共感(わか)る」彼女の思考には違和感を覚えるのですが、違和感を覚えるのが書いていて非常に楽しく、いい思いをさせてもらいました。タキビの顛末はまだ決めていませんが、作者としてはネクロの恋人にはなって欲しくない気持ちがありますね。アイサもやめた方がいいと思いますけど。どうなるやら。ちなみに、タキビ・アイサ・ジル・カットの恋の邪魔者チームは、シーズン2で主役回を1話作る予定です。