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トキシドロップ・ロリポップ

 林檎飴のやつが誰を好きになったかなんて知りたくもなかったけれど、入学以来のペアとしては当然察するものがあるわけで、その告白が玉砕することは死体になって帰ってくる前から知っていた。

 もちろん、それは問題じゃない。この学園では、生徒の価値は致死量で決まる。体重÷殺した人数。至極単純なその計算式に従うのなら、わたしの成績は平均ちょい上の126gで、林檎飴はドベのどん底55321g。体重丸出しのそのスコアは生徒以前に乙女として失格で、そんな出来損ないが鈴蘭坂先輩に告ろうだなんて、どうなるかはバカでもわかる。

 でも、林檎飴はわからなかった。バカで落ちこぼれなわたしのペア。2年もこの学園にいて、たった1人しか殺せない甘ったれ。

「その落第生の話はどうでもいい」

「だよね」

「その後だ。死体をお前たちの部屋に返した後、鈴蘭坂は自室で血を吐いた。毒だ。恐らく針。私の目の前で、死んだ」

「それが何かまずいの? 」

「まずくはない。むしろ喜ぶべきだろう。あの鈴蘭坂を殺せるほどの生徒がいることを生徒会長として誇らしく思う」

 応接机の対岸から打ち返されたマジメな回答に、わたしは俯いた。

「……じゃあ、いいじゃん」

「そうだな。その通り。その通りだが……」

 声は一瞬途切れ、熱を帯びた。

「お前か?」

 俯いたまま、鼻で笑ってやった。火焔岳会長の致死量は7g。眩暈がするほど有毒で優秀なその殺意が凝固し、わたしのつむじを叩く。でも、顔は上げない。ムカつくくらい整った鼻も、冗談みたいに長い睫毛も見てやらない。お前なんだな、と念を押す声には致死と情念が凝っている。

 その通り。わたしだ。

 林檎飴のやつが誰を好きになったかなんて知りたくもなかった。だから、ずっと黙って舐めていた。全て終わった後に鈴蘭坂先輩を殺せるように。あの娘の甘さに報いるための、もっと甘い猛毒のドロップ。わたしは口中のまち針にその蜜を絡ませ、そっと吐き出し、握る。


【続く】