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逆噴射小説大賞2018

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逆噴射小説大賞の投稿作品です。
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#逆噴射小説大賞

温泉街の怪人

 痛みで熱を帯びた呼気は、足湯から立ち上る湯気よりも白かった。  踏み抜く雪に腹から垂れ…

緋色の改竄

「対象はこのメスね。遺失?私有?」 「遺失ですね。第二種小型遺器物・遺失二十五号」 「あー…

完璧なディストピアの作り方

 地上を舐め尽す警報音に追われ、僕は廃棄場の底にいた。  〈オルダ〉の多脚刺肢に貫かれ、…

歯抜けの犬は肉を噛めない

〈禿げ猫〉について覚えていること。全身無毛。爪に毒。妖猫のような瞳。女。本名不詳。  三…

二人の寸刻みシアター:邦画編

「ジャズ大名って映画わかるかな」  僕の問いにコグレは首をぶるぶる横にふった。 「貧乏藩…

さよならエニグマまたいつか

四人の編集者と組んで暗号を解いてもらいたい。見事解き明かした組には遺作の出版権と日本最高…

泥斬り稼業

 ドブ長屋のクズ共が死んだ理由は三つある。五日続いた豪雨と、役人が積み上げた鉄屑と、貧乏。要は三つ目だ。もっとマシな所に住んでいれば崩れたゴミ山に潰されて死ぬこともなかった。泥油と混じって蘇り、俺のようなガラクタ人形に斬られることもなかった。 「五つ」  無造作に蒸気刀を振る。何の抵抗もなく屍泥は斬り倒される。 「六つ」  もう一匹。肩の歯車が軋む。 「七つ」  半壊した天井から泥油が垂れ、鉄笠に落ちる。 「八つ」  鉄笠の縁から泥油が垂れ、油だまりに混ざる。

空色グルメ

 アルカリ電池単三20本入り3つ 3600円。  マンガン電池単一2本入り5つ 1000円。  コイン…

アルキメデスの詭弁

「現実とはある程度自由に改変できる代物だ。たとえば今、私は私の性別を女だと認識しているが…

マリッジブルーと沼の城

 生暖かい吐息が顔に吹きかかり目を覚ます。まず聞こえたのは天幕が引き破れ支柱が折れる音。…

イミテイション・ゴールド

 「男湯」の暖簾をくぐった先で俺を出迎えたのは、扉の開いたロッカーの群れだった。死んだ魚…