ドライブ

よく夜の道を車で流す。何も考えずただひたすらに、景色を眺めて走るのが好きだ。

「気紛らさねぇとやってらんねぇよな..」

普段は教師をしてる。その辺の連中より、随分と神経を使ってる自信がある。とにかく最近の子供は難し過ぎる。

「子供が悪い訳じゃないんだけどな。」

あの年頃の子供たちが苦悩していきているのはよく分かる。だから文句がある訳ではないが、どうも上手くいかない。とにかく毎日、気を発散させられる隙間が欲しい。

「パーキング行くか..。」

車を走らせて気が休まらないときは、コンビニで適当に飯を買いパーキングで車を停める。

「あんまり食うと..夜中だしな、体に刺さる。」

一応は健康を気にしてる。心がギリギリだから、身体は健全でありたいというせめてもの抵抗だ。

「むすび2つと...ウーロンだな。」

本日至極のお供を手に取る。この瞬間はいつも楽しい、これから先はもっと楽しい。

「..あれ、先生じゃん。それ夜食?」

「あ、あぁ..まぁな。」

〝誰とも会わなければ〟の話だが。

「さっさと車戻ろう..」

会計を終え店を出る、これで至福が戻ってくる。

「待ってよ先生、少し話そ?」

「……」

〝何も起きなければ〟の話だが。

「なんだよ桃島、成績の事か?」

「沙百合でいいよ、そうじゃない。確かに進路は気になるけど、何処の大学行こうとかさ。」

「ならなんだ?」

どうでもいい、そう言えたらどれだけ楽か。夜風に当たったところで何も気持ちよくは無い、安寧は車の中にしかはじめから無いのだ。

「…話、聞いてくれる気ある?」

「車、乗るか..」

外にいるのが耐えられなくなり、車に乗せた。運転席の横で語られたのは下らない話ばかり、もっと複雑な事を考えて生きているんじゃないのか。落胆と共に、少し気持ちが楽になった。

「どう思う? 私の話」

「…雑音。」

「え?」

「ラジオ..点けるか。」

大音量で流れる知らない曲、つまらない声を遮るには丁度いい。

「かっ..あっ...!」

歌が止む頃には、話も終わっていた。

「..はぁ、面倒だな              またやっちまった。」

俺はむすびを頬張り、茶を飲んだ。そこで漸く、幾らか気が休まった気がした。

「さぁて、運ぶか。」

明日も一日頑張ろう。俺はまた、夜の道を車で流すだろう。〝何も起きなければいいが...〟


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