おじいちゃんと鼠
ウチの家は古い、田舎のボロ屋といった表現がピッタリの場所だ。天井裏からは何かが走る音がするし、床は踏み込むと軋む。親に聞いてもリフォームをする気はさらさら無さそうだ。
「ネズミかな?」
天井の小刻みな音が鼓膜に響く。小さな足が、住民に不快感を与えようと奮闘しているのだろう。
「どうした妙子。」おじいちゃんが声を掛ける
「天井がうるさくて、夜寝るときもなんだ。お母さんに言ってもリフォームしないっていうし..」
「そうか...少し、時間をくれるか。」
「え?」
おじいちゃんはそう言うと、はしごを使って天井裏に登り始めた。
「音、消してくるから。安心して寝なさい」
「うん..有難う。」
その日の夜は、ぐっすりと眠れた。常にしていた天井からの音が一切聞こえなくなったのだ。
「本当に退治してくれたんだ。」
その日から、おじいちゃんはいなくなった。
朝になっても、何日も経っても、おじいちゃんの姿を見る事は無くなった。
「お母さん、おじいちゃんどこ?」
「……」お母さんも答えてはくれない。
「へんなの。」
不思議なのは、いなくなったおじいちゃんを誰も探そうとはしないこと。まるで何処にいるかを知っているかのように、無視をし続けている。
「おじいちゃん、何処行っちゃったの。」
心配と疑問を抱えながら、布団へ入る。暫く経つと、おぞましい不快感が鼓膜を走る。
「…え、音がする。天井裏..?」
眠れない、久々の感覚。まだ鼠が生きていたのか。私は意を決して退治する事にした。
「前にハシゴを掛けていた入り口は..」
小さい取手の付いた、天井裏へ続く入り口がある。そこにハシゴを掛けて登るのだが、何故か既に開いている。
「誰かが用があって開けたのかな?」
用事だとすれば掃除だが今は真夜中、夜更けに天井裏の掃除をするのは不自然だ。
「まぁいいや、ハシゴ..」
直ぐそばにあるハシゴを立てかけ天井に登る。薄暗く酷くほこりっぽい。少し息を吸うだけで咳が出る程だ。
「やっぱり音がする..素手で捕まえられるかな?」
よく耳を澄ますと、走る音ではなく何かをかじる音。そういえば冷蔵庫の菓子が僅かに減っていた、鼠がくすねて食べていたのだ。
「どこかな、音はするけど暗くてわからない。」
耳に聞こえる音を頼りに暗闇を進む。すると一つの影が見える。暗闇の中に存在する、生き物の影
「何かいる..鼠かな、それにしては大きい。」
「妙子、離れなさい!」背後から声が聞こえる。
「お母さん?」振り向くと母がいた。
「お母さん、天井から音が..鼠がうるさくて。」
「いいから、離れなさい。それは鼠じゃないわ!」
母が懐中電灯で光を灯す。するとそこにいたのは鼠よりも奇怪で身近な存在だった。
「……嘘..おじいちゃん..?」
私のおやつのバームクーヘンを、音を立てながら美味しそうに頬張っていた。
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