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誘惑

「最近本買ってる?」
「買ってない。読んでない本がたまっちゃってるから」
という会話を2,3日前にしました。
確かに、しました。
私の舌の根はまだまだ乾く様子もなく、じゅわじゅわとたっぷりと湿り気を帯びています。

仕事の用事を済ませに郵便局へ行きました。
通りすがりにある本屋さんには地球のそれとはまた別の得体の知れない引力があるのだと思います。
「え、あ、いや、そんなつもりは…」
と心は叫ぶのに私の逞しい両足はその力に逆らうこともできずに自動ドアの向こう側へと吸い込まれていったのでした。
その時ふと、気になっていた本のことを思い出しました。
「あ、そうそう、あれはあるかな?」
引力への無駄な抵抗をやめ、なんなら引力を追い抜かす勢いで私は書棚へと向かって行きました。
その途中にツラツラと押されるように表紙の上を視線がサーフィンをしていました。
ん?私は乗りかけた波から降りるように一冊の本の前で立ち止まりました。
まずは写真の素敵さ、そしてタイトルとその表紙のデザインに私の目は釘づけになりました。
パラパラと少し開いて中を見て、いや見なくてもきっと買ってしまうんだろうなと確実に感じていました。
「あ、そうじゃない。私は気になっていた本を見てみようとしてたんだ」
そう思いながらも、
「この出会いはきっと間違いじゃない。だって私は本はジャケ買い派なんだから」
「さっき思ってたあの本はいいの?」
「うん、今日はもういいの。だって、出会ってしまったんだもの」
心の中でひとり茶番を演じながら本を抱えてレジへと向かったのでした。

表紙がお気に入りだと棚に並んでいるだけでうれしくて、まだ読めていないという罪悪感がちょっと薄れる気がするんですよねぇ。

これだからやっぱり紙の本はやめられない。

今日のジャケ買い。
『作家とおしゃれ』平凡社

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