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真冬の台北

台北の真冬(最近の雨続きの台北生活で思ったこと)

 初めて台湾を訪れたのは30数年前の1月始めだった。飛行機から降りて、空港ロービーに達した時、え?ここは夏なの?と思うほど蒸し暑い空気が流れていた。乗客のメガネがみんな曇るほど高湿度だった。台北と台中で10日間ほど過ごしたが、毎日暑くて、日中は半袖で過ごした。

 台北と台中に暮らす親戚たちから、「さすが北の国から来た人ね。全然寒くないのね!」と言われた。親戚たちも街の人たちも皆んな真冬の服装をしていた。僕自身は台北や台中は亜熱帯地方だから、さすがに蒸し暑い!と感じていた。

 その後も、何回か台北と台中を訪れたのだが、自分の中ではずっと蒸し暑い国だという感覚だった。数年後、台北生活を始めた時も1月始めからだった。最初の数日間は今まで通り、蒸し暑い所だなと感じていた。ところが2週間目から少しづつ、今まで感じたことのない変な寒さを感じるようになりはじめていた。

 その年はちょうど今の台北のように毎日雨か曇りの天気で、それが4月下旬まで続いた。台北生活を始める前、東京で知り合った台湾人留学生たちから、台北の1月、2月は寒いんだよ!日本人には信じられないかもしれないけど…と言われていたが、台北生活1ヶ月目ぐらいから、自分もそう感じるようになっていた。

 今年25回目の台北の冬を迎えたが、台北の冬は年々寒く感じている。あっ!一度台北市内でも一瞬みぞれがちらつくぐらい寒かったたこともあった。台湾人の上司は分厚い純毛のコートを着込んで、これは北京出張の時にしか着たことのないコートなのよ!と言っていたことを今でも覚えている。

 なぜ、観光で台北を短期間訪れた時には冬でも寒く感じなく、長く生活し始めたら、台北の冬が寒いと感じるようになったのだろうか?おそらく、零度以下になる真冬の日本から突然、亜熱帯地域に来るから、体感温度が日本にいる時のままだとか、観光客と生活者では心理状態や行動パターンがかなり違うこと、そして自分自身が年々歳をとり、血液循環が悪くなり、気温の感じかたが変化してきているのだろう。

 観光客として訪れれば、楽しくて興奮状態にあるし、時間に制限があるので、常に急ぎ足であちこちを見て回る。忙しくて、寒さを感じないのかもしれない。生活者だと何か事件や問題が起きない限り、普段はのんびり行動している。仕事や勉強などで、長時間机の前やパソコンの前でじっとしていることも多い。台北の冬はじっとしていると、じめっとした気持ちの悪い寒さを感じるが、何か用事ができて、歩き回ったり、動き回ると、すぐに汗をびっしょりかく。高湿度のためだ。用事が済んで、またじっとし始めると、汗に冷たい空気があたり、さらに体が冷える。歩き回っても汗をかかない東京の真冬が懐かしい。

 あっ、もう40年近く前になるけど、初めて行った真冬のヨーロッパのことを思い出した。パリとロンドン合わせて2ヶ月滞在したが、零下5度前後のはずなのに全然寒く感じなかった。毎日楽しくて、刺激があり、興奮していた。それに、常に外を歩き回っていたからだと思う。また乾燥していて気持ちがいいとも感じた。冷蔵庫の中にいるような感覚だった。台北に移住した後、たまに真冬の東京に行くと、この時のような感じになる。冷蔵庫の中にいるみたいで、気持ちいいという感じだ。

 さらに台北のアパートやマンションの床はコンクリートの上に大理石が敷いてあったり、タイル貼りが多い。冬は床から冷気が上がってきて、自分の足の骨の中に侵入し、じわじわと染み渡っていく感じがある。自宅の床も大理石の一種のタイル張りだ。真冬は自宅にいる時はズボンや靴下の2枚履き、3枚履きだ。

 でも、近所に済む親戚の子供達は真冬であっても部屋の中だろうが外だろうが、裸足でサンダル履きだ。上半身は部屋の中でもダウンを着ていたりするのに。僕には冬に靴下を履かないなんてことは考えられない。朝起きたら、先ずすぐに靴下を履く。寒い日は靴下を2枚重ねて履く。上半身は薄着でも靴下さえ履いていれば、とりあえず暖かいと感じる。というか、こういうことを幼い時から常に母親に言われてきた。靴下だけはちゃんと履きなさい!と。

 子供の頃から靴下を履く習慣が身についていると、靴下が手放せないけど、子供の頃から靴下を履く習慣がないと、裸足でも全然寒さを感じないようだ。そういえば以前、お年寄りの台湾人男性に台湾文化とは何だと思いますか?と訪ねたことがある。その人は「裸足の文化だ」と答えた。その人は農家の出身だったが、中学生ぐらいになるまで、ほとんど裸足で過ごしたそうだ。外を歩く時も裸足だったそうだ。小学校も裸足で通い、学校に入る時に靴を履き、下校する時も靴を脱いで、裸足で家に帰ったそうだ。

 昔ニューヨークの治安の悪い地域で生活している人は同じジーンズをサイズ違いで3枚持っているという話を何かで読んだことがある。真冬に3枚重ね履きすれば、防寒にもなるし、ナイフで太ももを刺された時に重傷にならずに済むからだとか。

 僕はナイフで刺されることは想定していないけれど、真冬に重ね履きするために、ズボンは常に大きいサイズのものも用意してある。破れたり、擦り切れた靴下も捨てないでとっておいてある。部屋で重ね履きをするなら、穴が空いていてもかまわないから。

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