韓国華僑

 自分は現在、台北市内の小学校の夜間部で小学二年生だ。学費は無料。現在の小学生が使っている国語の教科書で授業を受ける。最近勉強したページの内容は休暇にお母さんの故郷ベトナムへ里帰りして、ベトナム人のお爺さんとベトナムの水上操り人形劇を見る話題だった。近年、台湾ではお母さんがベトナム人という小学生が増えているからだろう。

 妻が友人から聞いた話だと、学校によってはクラスに両親とも台湾人の生徒は2、3人しかいなくて、他の生徒のお母さんは皆んな新住民(外国から移民してきた人)という所もあるらしい。

 僕の小学校夜間部での現在のクラスメートは4人のベトナム人女性、 他は年配の台湾人女性たちと日本人である僕だけ。他の国の人はいない。一年生の時は中国人やイタリア人、韓国人、フィリピン人などもいたが。

 年配の台湾人おばさん達は授業中にほとんど中国語を話さなく、台湾語だけで話すことが多い。それで先生もつい台湾語だけで授業を進めてしまう。僕は理解できるが、ベトナム人たちは台湾語が全くわからないので、少しかわいそうなことになっている。でも誰も文句を言わない。小学校の夜間部の本来の目的は子供時代に家庭の経済的な事情などにより、小学校さえ行かせてもらえなかったので、字の読み書きができず、中国語を話すことも苦手な台湾人を教育することだからだ。

 実は台湾人同級生の中で一番年上であるおばあさんは中国山東省生まれで、子供の頃家族と韓国へ移民して、10代になって台湾へ再移民してきた人なので、この人も台湾語は全く理解できない。中国語の訛りもきつい。色々な話を聞きたいのだが、僕には何を言っているのかわからないことが多い。

 一年生の時には韓国人も来ていたが、その韓国人におばあさんは自分も韓国から台湾へ移民したということを話さないどころか、何も話しかけないし、挨拶もしていなかった。おそらく韓国での生活にいい思い出がないのだろう。以前、僕がおばあさんに韓国にいた頃の話を聞いた時、訛りがきつくて、内容はほとんどわからなかったが、ものすごく興奮して、韓国人に対して文句を言っているように聞こえた。

 僕も韓国人と韓国内の華僑との問題は韓国で生活したことのある父や韓国人友人からいろいろと聞いていたので、韓国人同級生にはおばあさんの出自に関しては黙っていたし、おばあさんに韓国時代の話を聞くこともなるべく避けていた。

 僕が10歳代前半の頃、父が韓国で仕事をして、生活していた時の右腕的な部下だった人が中国山東省出身の華僑だった。父はこの人と知り合ったばかりの時、当時の韓国人社長にこの華僑の若者を雇ってほしいと持ちかけたら、猛反対されたそうだ。でも父はこの人に助けてもらわないと自分は仕事にならないと、一生懸命説得したらしい。

 父は英語は話せたが、韓国語は片言しか話せなかった。しかし、この華僑の人は韓国語も日本語も英語も中国語も話せたので、父には部下としてどうしても必要だったのだ。当時の韓国人社長は父に我々韓国人は日本人が嫌いだが、華僑はもっと嫌いなことを知っておいてほしいと言われたそうだ。  

 僕はソウル滞在中に、この部下の人にソウルの中華料理店に連れて行ってもらったことがある。その時、ごちそうしてくれたナマコ入りの五目麺料理がそれまでに食べた全ての麺料理の中で一番美味しいと感じたことを今でも覚えている。

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