「鄭」の中国語発音

 昔、語学学校に通っていた時、その学校に鄭さんという先生がいた。ある時、クラスメートの日本人が僕に「ゼン先生と仲がいいよね!」と言ってきた。どの先生のことかわからなくて、「誰のこと?」と聞き返した。で、その日本人は「ゼン先生だよ!ゼン先生!」としきりに言うのだが誰のことかわからなかった。漢字を書いてもらったら「鄭」だった。彼は鄭のローマ字表記(ピンイン)であるzhengをゼンと読んでいたのだ。「鄭」はピンイン表記ではzhengでウェード式表記だとchengになるが、僕にとっては台湾人の発音はツェンだと思っているから、ゼンと言われても誰のことかわからなかったのだ。外国語のローマ字表記は日本語ローマ字とは違う読み方のルールがある。それに従わず、日本人は日本語ローマ字式に読んでしまうから原音とずれてしまう。chengがもし台湾語発音を表す教会ローマ字(台湾語発音を表すローマ字)だったら、チィェンやチン(方言の違い。たまにツェンと発音する人もいる)という読み方になる。この問題は韓国語でも起こる。韓国を代表する企業、サムソンは日本人の間ではサムスンと呼ばれ、ヒョンデはヒュンダイと呼ばれている。

 こんなこともあった。昔、鄭という苗字の芸能人の日本語家庭教師をやっていた時、日本で活動する時の芸名をどうしたらいいか相談を受けた。鄭は日本語で何と読むのか?と聞くので、「てい」だと教えた。彼は「いいねえ。鄭の台湾語発音のテェ(鼻にかかる発音)に似ているから気に入った!」と言ってくれた。しかし、後日、日本側ですでに発足していたファンクラブに参加しているファンたちは彼のことをチェンと呼んでいることがわかり、それが定着してしまっているから、芸名はもう変えられないということがわかった。本人はすごく悔しがっていた。「何でチェンなの?ジャッキーチェンみたいで嫌だよ!だいたい鄭の中国語発音はツェンでチェンじゃないし・・・」と言っていた。なぜ日本のファンたちは彼をチェンと呼び始めたのか。それは彼のパスポートに記載されている鄭のウェード式ローマ字表記がChengになっていたから、それを日本語ローマ字を読むようにチェンと読んでいたのだ。

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